MEIJIN 41〜彩視点〜





京田さんと同じ部屋のルームキーを貰ってしまった私。

私達のやり取り見て真っ青になってる柏木女流がいた。


「京田さんの彼女ってもしかして……進藤さんなんですか?」

「…そうだよ」

「!!」


隠さず肯定してくれた京田さん。

嬉しくて、私は彼の腕にギュッと手を絡ませた。


「京田さん、お部屋案内してくれる?」

「いいよ。じゃ、柏木さんまた後で」


一緒にエレベーターに向かいながら私は振り返って、柏木さんにフフンと勝利の笑みを見せてやった。

彼女は呆然としていた。

いい気味だ。

(よかった…、間に合った。やっぱり長野まで来てよかった)

 

 

 

 



「お疲れ様でしたー」


18
時。

お兄ちゃんが封じ手を終えた後、大盤解説会も一旦幕を閉じた。

私は関係者用の検討室で、対局場と大盤解説会場の両方をモニターでチェックしていた。

京田さんと柏木さんも壇上から降りて、画面から姿が消える。

数分後、検討室に二人が姿を現したので、直ぐさま私は京田さんに駆け寄って行った。


「京田さん、お疲れ様♪」

「彩ちゃん」

「このあと夕食会でしょう?先に部屋で着替える?」

「そうだな…」


京田さんはもちろん今はスーツを着てるけど、夕食会はラフな格好でいい為、一度部屋まで着替えに戻ることになった。


「私も本当に参加していいのかな?」

「うん。準備して貰ってるから大丈夫だよ」

「ありがとう」

 


部屋に着くともうお布団が2組敷かれていて、私の頬がほんのり赤くなる。

どうしても、この前の箱根旅行の夜を思い出してしまうからだ。


(きゃー///あの晩は熱かったわ)

チラリと京田さんの方を見ると、彼は少し困ったような顔をしていた。


(どうしたんだろう?)

 

 



食事会では記録係の相川二段とも一緒にお喋りを楽しんだ。

院生だった時は彼ともよく対局したものだ。


「俺、あのプロ試験の時、進藤十段が初戦の相手だったんだよなぁ。今思うとツイてないよ」

いや、むしろツイてたのか?と相川さんが首をひねる。

「そういえばそうだったね。私は京田さんが相手で半泣きだった」

「はは、いきなり院生12位対決だったもんな」


プロ試験――懐かしい思い出だ。

一緒にプロ試験を受けたお兄ちゃんのタイトル戦を記録する相川さんは、今一体どんな気持ちなんだろう。

ずいぶん差を付けられてしまったな…、って感じだろうか。

でもそれは私も同じだ。

お兄ちゃんは両親と一緒で、もう雲の上の住人だ。

きっともう下界に降りてくることは二度とない。

私がお兄ちゃんと公式戦で対局することは、きっともう二度とないのだ。


「そういえば京田君、今月末に進藤十段と本因坊リーグだね」

「まぁな…、楽しみだよ」


私と違ってお兄ちゃんとしょっちゅう対戦している京田さん。

トーナメントは運次第だけど、リーグ戦だと必ず当たるからだ。

リーグ入りなんて…、私には夢のまた夢だけど……


でも、諦めたらそこで試合終了だ。

少しでも近づけるよう、私も精進しようと思う。


「相川さんもいつかお兄ちゃんとまた対局出来るよう頑張ろうね!

「うん、そうだよな」


そして相川さんは

「ところで何で進藤さんここにいるの?ご家族の応援?」

と聞いてきた。

「えへへ、そんなとこ〜」

 

 

 

 



夕食会が終わり、私と京田さんは部屋に帰って来た。

すぐに着替えの準備をして、次は一緒に大浴場へ向かう。


「温泉♪温泉♪」


何故か京田さんは神妙な面持ちだ。


「京田さん、どうかした?今日の対局で気になるところでもあった?」

「いや…?大丈夫だよ」

「どっちが勝つかなぁ?」

「明日の展開次第かな」

「そうだよねぇ…」


AI
の評価値も残り時間もまだ五分だ。

結果は明日のお楽しみに取っておいて、私達は私達で今夜を楽しもうっと♪

 

 

 


「いいお湯だったね〜」

「……」


大浴場を堪能して再び部屋に戻って来た私達。

でも京田さんはやっぱりちょっと変だ。

一体何があったんだろう?

は!まさか!


「京田さん…、もしかして私に言えないことあるの?」

「え…?」

「だってずっとテンション低いし」

「あー…、うん。ごめん…」

「私に謝らなくちゃならないこと、しちゃったの?」

「うん…」

「まさか………昨夜柏木さんと何かあったとか?」

「え?」


私が泣きそうな顔で尋ねると、京田さんがキョトンとした。


「それは有り得ないから安心して」

とキッパリ否定してくる。


「よかった〜間に合った〜」

「……」

「でも…、それじゃあ何?何をしちゃったの?」

「しちゃったというか……忘れたというか…」

京田さんが気まずそうに打ち明けてくる。

「彩ちゃんが来るって分かってたら、ちゃんと準備してきたんだけど…」


私が来ると準備しなくちゃならないもの?

つまり私がいなかったら必要ないもの。

ぴーんと来た!


「ああ…!もしかしてゴム?大丈夫だよ!私ちゃんと長野駅で買って来たから!」

「…え?」


スーツケースに入れっぱになっていたその紙袋を京田さんにハイっと渡した。

中を確認した京田さんが固まる。


「彩ちゃん…、そんなに欲求不満だった?」

「え?」


京田さんがそう思うのも無理はないかもしれない。

なんせ私は5箱も買ったのだ。

(よく分かんなかったから)


「でも助かった…、ありがとう。この状況でお預けはキツかったから」

「ふふふ〜いっぱいしようね♪全種類使ってもいいよ♪」

「それは流石に…」


明日解説どころではなくなるかも…、と笑った京田さんの唇に、私は早速キスして布団に押し倒したのだった――



 


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