●MEIJIN 39●〜彩視点〜
名古屋駅で降りた私。
すぐさま今度は長野駅行きの特急へ飛び乗った。
長野駅に着いたら須坂駅ってとこに移動して、バスに乗り換えて1
「夕方には着くかなぁ…」
ちょうど明日から土日だし、学校を休まなくてもいいのは正直助か
あとはお父さんに上手く説明するだけだ……
『お母さんとお兄ちゃんの応援に長野行ってくるね!』
というLINEを送ってみる。
するとすぐに着信が。
「も、もしもし…」
『彩?現地に行くってことか?』
「う、うん…。近くで応援したくて」
『一人で行くのか?』
「うん。もう特急乗ってる」
電話の向こうでお父さんが大袈裟にため息を吐いてくる。
『どうせ京田君に会いたいだけだろ?』
どうやらバレバレだったらしい。
『4日くらい会えなくてもどうってことないだろ?』
「…お父さんはお母さんに4日会えなくてもどうってことない
『…まぁ4日くらいなら何とか』
「じゃあお母さんが他の棋士に言い寄られてるのが分かってても、
『それは速攻行く』
「でしょ?!じゃ、私も行ってくるから!!」
『お、おう…。頑張れよ…』
通話をブチッと切った。
私の中でメラメラと炎が燃えだした。
(待ってなさい…、柏木女流!京田さんは絶対に渡さないんだから
塩尻駅を過ぎた頃、待ちに待った大盤解説会がスタートした。
『解説を務めます京田昭彦です。今日明日とよろしくお願いします
(きゃーvv京田さんvv)
『聞き手を務めます柏木咲希です。よろしくお願いします』
(く…、コイツよコイツ…)
私は携帯の中の彼女を睨んだ。
柏木咲希女流初段、20歳。
院生出身の去年入段。
そう――院生出身なのだ。
しかも彼女は小6で院生になっている。
つまり今21歳で中1から院生になった京田さんとモロ時期が被っ
尤も、彼女はずっとB組とC組の間をウロウロしていて、すぐにA
そういう私もすぐにA組のトップに上り詰めたから、彼女とは打っ
私達がプロになった後にようやく才能を開花させ始めた彼女は、院
問題なのは彼女のルックスだ。
綺麗にアイロンで巻いた茶髪。
お化粧もとっても上手で、でもナチュラルで今どき。
でもって全体的にホワンとした愛くるしい容姿は、守ってあげたい
事実、大盤解説会の配信のリアルタイムで流れて来るコメント欄に
『咲希ちゃん天使vv』
『付き合いてー!』
『京田七段メロメロじゃん』
という文言が溢れかえっていた。
(はぁ?!京田さんのどこがメロメロしてるって言うのよ!どうみ
『京田さん、対局者のおやつ美味しかったですねー』
『そうですね。俺は進藤十段の頼んだ地元の銘菓の方をいただいた
『わ〜いいなぁ。私がいただいた塔矢名人のフルーツの盛り合わせ
コメント欄には
『公開デート?』
『美男美女でお似合いな二人』
『もう付き合っちまえ』
という文言が……
私は耐えられなくて、思わず携帯をパタンと閉じてしまった。
危険だ。
危険すぎる。
女の私から見てもこんなにも可愛い彼女が、実は
「彼女がいても関係ないわ。奪えばいいだけじゃない」
という考えの持ち主だなんて。
京田さんがこの女の手に落ちる前に、一刻も早く現地に着かなけれ
「ここが長野駅か〜」
初めて来た長野駅。
在来線に乗り換える前に、私はある物を買いに目的の場所に向かっ
着いた先は駅前のドラッグストア。
もちろん、例のものを買うためだ。
(出張に京田さんが持っていってるわけないからね…)
先日学校で受けた保健体育の講義。
こういう時こそ流されずしっかり準備しておかないといけないらし
もちろん、使う機会がありますように!と祈りながら購入する。
(何かいっぱい種類あるんだな…。京田さんがいつも使ってるのど
続いて在来線に乗り換えて、更にバスに揺られること一時間。
ようやく私は対局会場の旅館に到着した。
もちろん私だってプロ棋士なので、関係者用の検討室にだって自由
ただ、一つだけ問題があった。
「申し訳ございません。本日と明日は満室でして…」
「…ですよねー」
ネットでも全然空室がヒットしなかったから分かってたことだけど
泊まるところがないのは流石にマズイ。
もちろん対局者自体が自分の母親と兄なわけなので、その二人に連
が、タイトル戦の対局中に対局者に会えるわけがないのだ。
やっぱり近くのビジネスホテルでも取りあえず確保しておくべきか
どうしようかとロビーで悩みながらホテルを検索していると――
「あれ?彩ちゃん?」
と聞き慣れた声がして、私は顔を上げた。
私を呼んだのはもちろん――
「京田さん…!!大盤解説会は?!」
「5時まで休憩中」
「そうなんだ…、お疲れさま…」
京田さんのすぐ後ろに柏木女流もいた。
休憩中まで京田さんにベッタリくっついてるなんてなんて奴だ。
キッと睨んでやる。
するとクスッと笑われる。
「進藤さん、今日はどうしたんですか?ご家族の応援?」
「…別に。ちょっと近くまで来たから」
「ちょっと、近く?」
クスクス笑われる。
流石に苦し過ぎたか…。
名古屋から5時間もかかっちゃったしな…。
「どこに泊まってるの?」
と聞かれて、私は口を噤むしかなかった。
「彩ちゃん、もしかしてまだ泊まるところ決まってない?」
「……だってどこも満室なんだもん」
正直に打ち明けると、京田さんは直ぐ様フロントに向かって行った
(―――え?)
「307号室、二人部屋に変更出来ますか?」
「はい、可能でございます」
「じゃあ追加料金は別で払うのでお願い出来ますか?」
「畏まりました。以降のお食事のご準備も京田様とご一緒でよろし
「はい、お願いします」
とサクッと交渉してくれたのだ。
フロントから戻って来た京田さんに「はい、彩ちゃんの分」とルー
「あ…、ありがとう。いいの…?」
京田さんがにっこりと笑って、耳元で
「だって俺に会いに来てくれたんだろ?」
と囁いてきた。
「やっぱ…、バレてた?」
「一瞬で」
「///」
私達のやり取りを見ていた柏木女流が、真っ青になってたのは言う