MEIJIN 37〜彩視点〜





「ねぇ京田さん…。もし私が妊娠したらどうする…?」

「え…?」


私が突拍子もないことを言ったら、飲んでたコーヒーとかでいつも噎せていた京田さん。

でもこの時の彼は噎せなかった。

コトンとコーヒーカップをテーブルに置いて、真面目な顔で

「もし…?」

と聞き返して来た。


「うん。もし」

「うーん…」


少し考える素振りを見せてくる京田さん。

ドキドキしながら返答を待った。

期待半分、不安半分。


「とりあえず…、いかに進藤先生に殺されないように許しを得る方法を考えないとな」

「え…?」

「半殺しで許してくれるといいけど」

「…京田さん、逃げないの?」


私がそう返すと、京田さんがフッと笑ってくる。


「その選択肢はないから安心して」

「本当…?」

「うん。少し未来が早まるだけだよ。俺は彩ちゃんとの未来しか考えられないからね」


ああ……もうダメだ。

なんてことを私は聞いてしまったんだろう。

疑ってしまったんだろう。

彼はこんなにも私のことを大事に思ってくれてるのに。

愛してくれてるのに。


嬉し涙を見られないよう…、私はギュッと彼の胸に抱きついたのだった―――

 

 

 

 



「……教室でキスなんて羨まし過ぎる……」

「どうかした?」


翌々日。

今日も放課後、京田さんの部屋で宿題を始めた私。

昨日お兄ちゃんの帰りが遅かったから、二人で何をしてたのかと問い詰めたら、精菜は教室でキスしてたと白状してきた。

教室でキスだなんて。

教室でキスだなんて。

たかがそれくらいのことだけど………羨ましすぎる。

何故なら私が二度と経験出来ないシチュだからだ。

もう学生ではない京田さんとは、というか同じ学校でもなかった京田さんとは、絶対出来ないことをお兄ちゃんと精菜はイチャイチャと……


(ムキー!!)

 

「昨日お兄ちゃん、精菜連れて忘れ物取りに行ったじゃん?」

「そういえば…」

「忘れ物なんて嘘っぱちで、本当は教室でキスしてたんだってさ」

「それは……、青春してるねぇ進藤君」

「私も京田さんとしたかった…!!」


本音をぶちまけると、京田さんが「今からする?」と聞いてきた。


「そうじゃないの!ここじゃダメなの!京田さんも同じ学校に通ってて、学校の教室でコソッとするってのがいいの!」

「うーん…、それは今更無理だな」

「だから羨まし過ぎるの!!」


うわーんと泣き出す私。

もうどうしようも無いってことは分かってる。

分かってるけど、感情が追いつかないのだ。



「んー、実は昨日あのあと囲碁部顧問の崇原先生から連絡来てさ。もちろん棋院を通してだけど」

「…え?」

「やっぱり昨日の指導碁かなり評判が良かったみたいで。最後の大盤解説も。今まで外部講師は頼んでなかったみたいなんだけど、これを機に定期的に頼めないか打診されたんだよね」

「…そうなんだ」

「昨日って校長も含めた先生方も結構覗きに来てただろ?だから学校側もすんなり職員会議で通ったみたい」

「…だから?」

「だから、また来週俺、海王囲碁部に行くことになってるんだけど

 



――え?

 


「指導碁が終わったら彩ちゃん、俺を教室に案内してくれる?」

「そそそそれって……」

「生徒同士のシチュエーションはもう無理だけど。代わりに先生と生徒とか、どう?」

「――――!!」


先生と生徒が放課後教室でこそっとキスってこと??!!


そんなのそんなのそんなのーー

 


「最高すぎだよ!京田さん天才!!大好き!!」

 



その後予定通り月イチで海王囲碁部に指導碁にやって来ることになった京田さん。

京田さんが来る度に帰り際教室に引っ張っていって、最高のシチュエーションで私達はイチャイチャすることにしたのでした――

 

 

 

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