MEIJIN 34〜京田視点〜





師匠の進藤先生から

『今日の研究会はここでするから!16時に集合な!』

と連絡が来たのは今朝の話。

添付されていた地図の場所は海王高校だった。


(ここが彩ちゃんの通ってる高校かぁ…)

流石有名私立とだけあって綺麗な校舎だ。

文武両道、部活動にも力を入れてるからか、フェンスには横断幕がたくさんかかっていた。

インターハイ女子バレーボール部優勝、陸上男子1500メートル優勝、剣道個人優勝。

全日本吹奏楽コンクール金賞。


そして――全国高等学校囲碁選手権大会 全国大会男子団体戦優勝。


俺自身も院生になるまでは囲碁部にいたから、何だか大会という響きが懐かしい。






「京田君!こっちこっちー!」


約束の16時に正面玄関へと着くと、進藤先生が「急に悪かったね」と駆け寄って来た。

「いえ…」

「今日ここで佐為の三者面談があるらしくてさー」

「そうなんですね」

「まぁそれはサクッと終わらせて、囲碁部に指導碁に行こうと思って」

「へぇ…?」


進藤先生と話していると、進藤君が担任の先生らしき人を引き連れて玄関にやってくるのが見えた。

「あれ?京田さん?」

何でここに?と進藤君が驚いている。

どうやら俺が呼ばれたことは知らなかったらしい。


「ししし進藤本因坊!!わざわざご足労ありがとうございます!!きょきょ京田七段まで…?!」

「佐為の担任の先生?じゃあもうここで三者面談でもいい?うちの佐為は卒業後は就職するんで。というか中2から既にしてるんで」

「それはもちろん重々承知です!ただ進藤君の成績なら大学行かないのは勿体ないと言いますか…」

「これ以上学業に時間を取られる方が棋士として大損害だから」

「ですよねですよね。分かりました。ご両親の意見も一致してるということで」

「うん、ヨロシク〜」


サクッと1分もせずに三者面談は終わってしまった。

まぁでもそりゃそうだろう。

担任としても既に将来が決まってる生徒より、受験組に時間を掛けたいはずだ。


「実は、あのですね……、うちのクラスの別宮が大変図々しいことを進藤君に提案したみたいでして…」


担任がしどろもどろ話を切り出す。

その後ろからヒョッコリ女子生徒が一人出てきた。


「前海王女子囲碁部部長の別宮です!進藤君が本因坊がOKしてくれたら指導碁行ってもいいって言うんで、お願いに上がりました〜!」

「もちろんいいよ!その為に京田君も連れて来たんだから!」

「きゃーありがとうございます!!さすが本因坊様!!京田七段もよろしくお願いします!!」


進藤君が横で「ちっ…」と舌打ちをしていた。

 


すぐに全員で部室に移動しながら

「すみません京田さん。父が勝手に…」

と謝ってくる。


「別にいいよ。指導碁結構好きだし。それに海王囲碁部って強いんだろ?面白そうだ」

「それはまぁ…、そうですね。僕もどのくらい強いのか興味はあります」

「何人くらい部員いるのかな?」

「男女合わせて100人くらいらしいですよ」

100?!多っ!」

俺の中学囲碁部は10名くらいだったから、その数にまず驚く。

「元院生もいるとか…」

「へー、そりゃ全国優勝くらいしそうだな」

 


進藤君とそうこう話してるうちに、目的の囲碁部に到着したみたいだった。

新校舎2階奥――囲碁部専用の大ホール。

進藤君の担任は顧問だったみたいで、先生がドアを開けた瞬間シーンと一度静まり。

進藤先生、進藤君、そして俺が続いて入った瞬間に、ワー!キャー!ウオー!と大歓声を浴びることになった。

引退した3年生も駆けつけたらしく、確かにパッと見100人くらいはいそうだ。


「今日はよろしくお願いします。光栄です」

と部長らしき人が代表で挨拶してくる。

進藤先生が「どうしようか?120人ずつくらいで多面打ちしようか?」と提案する。


「いえ、棋力にだいぶ差があるので上位5人ずつ互先でお願いします。後の者は見学してますので」

「オッケー。じゃあそれでいこう」


手早く部員達が5人用の指導碁が出来るよう机を移動させる。

ここは序列順に進藤先生が3年生5人、進藤君が2年生5人、俺が1年生5人を担当することになった。

ん?全員男子生徒?女子は全員見学か?

進藤先生もちょっと気になったのか、「女子はいいの?」と部長に聞いていた。

「よかったら彩と精菜ちゃん呼ぼうか?」と提案する。


「いいんですか?」

「うん、ちょっと待ってて」

先生が直ぐ様電話し出した。


「彩?今どこ?ちょっと囲碁部の部室来いよ。指導碁手伝えって」

『は?何で?私今から精菜とハロウィン限定アイス食べに行くんだけど』

「精菜ちゃんも連れてきて」

『やだー。食べ終わったら京田さんちで宿題するしー』

「京田君、今部室にいるけど?」

『え?何で?ホントに?すぐ行くー!!』


彩ちゃんの話し声は聞こえなかったが、まぁ恐らくこんな感じの会話だろう。

3
分と経たずに緒方さんを引き連れた彩ちゃんがバタバタ「おっ待たせー!」とやって来た。


「本当に京田さんいるし。何でいるの?」

とニコニコ俺の方に近付いてくる。

「進藤先生に呼ばれて。彩ちゃんと緒方さんは女子部員お願い出来る?」

「もちろんいいよ〜」


俺の言うことには即OKする彩ちゃんを、進藤先生が睨んでいた。

ちなみに緒方さんが来たことで進藤君が明らかにニコニコと上機嫌になったのが分かった。

まさかここで会えるとは思ってなかったんだろう。

緒方さんと彩ちゃんの前にも5人ずつ配置され、全員が同時に頭を下げた。



「「「お願いします」」」

 

 

 

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