MEIJIN 33〜佐為視点〜





(………僕は中2の女の子相手に一体何をしてるんだ??)



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年前の自分と精菜の情事を思い出して、ちょっと衝撃を受ける。

あの頃は本当に色んなことをしてしまっていたよな…と。


「進藤?顔赤いで?」

「はは…、問題ないよ。そうだね……今もしあの講義を受けたら、僕も西条と同じ考えになってたかな」


確かに性行為自体をしないことが一番の避妊方法だ。

リスクを考えたらそれが一番だろう。


でも……現実的に無理かな。

一線を越えた僕らはもう元には戻れない。

一度味わった甘い蜜を忘れることなど出来ないのだ。


「まぁ…、緒方先生に殺されないよう頑張るよ。父の二の舞にならないように」

「そやね」

 

 



担任が教室に入ってきて、点呼が始まった。

僕の姿を確認した先生が、こっちに向かって軽く会釈をしてきたので、僕もそれに返す。

今の担任の嵩原先生は囲碁部顧問だ。

碁界に詳しい先生を担任に当ててくれたことは、説明も省けて楽でいい。

(流石棋士に優しい海王だ)


ただ、僕は今高校3年生だ。

3の二学期ともなると、クラスメートは完全に受験モードに入っていた。

当然親を含めた三者面談も度々行われていて、僕だって例外ではない。


(面倒だな…。どうせ僕は受験もしないし、電話で許してくれないかな)


「オレが海王になんて行くわけないだろ」と父は今まで僕や彩の三者面談には一度も来たことがない。

専ら母が担当していた。

だけど今はダブルタイトル戦を戦っている母の方が明らかに忙しそうなので、正直頼み辛い。

明日はまた本因坊リーグが予定されている母。

相手は窪田碁聖なので、当然簡単に勝てる相手ではない。

僕との名人戦第5局は来週長野であるし、精菜との女流本因坊戦第2局も中2日で今度は秋田で行われる。

うーん……

 


「進藤君」


朝のホームルームが終わったところで先生がこっちにやってきた。

渡された補講スケジュールに顔が引きつる。


「進藤君に三者面談は必要ないと思うんだけど…、一応決まりでね。いつなら大丈夫そう?」

「そうですね……」


今日明日を逃すとまたしばらく僕は学校に来ない為、先生が焦る気持ちも分かる。

なんせ本来なら9月中には終わらせておくべきだった面談だ。

今日は家にいるはずの母に電話する。

携帯の傍にいたのか3コールで出たが、何やら周りが騒がしい。


『すまない、今駅なんだ。これから棋院で取材と撮影が入っていて

「そう…」

『ヒカルにお願いしてもらえるかな?今日は予定空いてるから夕飯も作れるよ、とか言ってたから』

「分かった」


直ぐさま次は父にかける。

こちらも1コールで出たので、事情を説明する。


『えー?海王?ぜってぇヤダ』

その言い方にカチンと来る。

「僕だって頼みたくないけどね。最後くらい親の役割果たしてほしいんだけど」

『仕方ねぇな…。どこに何時に行けばいいわけ?』

「海王高校の正面玄関に16時」

『へいへい』


通話終了ボタンを押した後、先生にも

「じゃあ今日の16時に父が来ますので」

と伝える。

「そう…、お父さんが。進藤本因坊が…」

緊張するなぁ…、と先生は職員室に戻っていった。


一部始終を見ていた西条が、

「どうせなら本因坊に海王囲碁部案内してやったら?」

と悪ノリしてくる。

「案内って…、僕だって一度も行ったことないのに」


プロになったすぐ後に行ったのは中学の囲碁部だ。

高校の囲碁部は一度も行ったことがない。

この夏の全国大会も団体戦は優勝していたからそれなりに強いんだろうけど。

どのくらい強いんだろう……




「進藤君こそ、最後くらいタイトルホルダーの役割果たしてくれてもいいのよ?」


と背後から声をかけられ、ビクッとなった。

恐る恐る振り返ると………案の定別宮さんがいた。

(前女子囲碁部部長だ。この全国大会後に引退をしている)



「はは…、生憎時間がなくて。ごめんね」

「補講で?出席日数ヤバいもんね進藤君。でも1時間くらいなら取れるんじゃない?嵩原先生の現国の補習1時間と引き換えってのはどう?」


先生のいないところで勝手にとんでもない提案をしてくる。


「でも三者面談もあるしな…」

「アンタそんなの必要ないでしょ。どうしてもと言うなら1分で終わらせて、進藤本因坊と一緒に部室来てよ」

「それは僕の一存では決められないっていうか…」

「じゃあ進藤本因坊が来たら私が提案するから。本因坊がOKしたら進藤君も来るのよ?いい?」

「えー…」

「嵩原先生には私から話を通しておくから。逃げないでよ?」

「……分かったよ」


僕がしぶしぶ了承すると、ヤッターと別宮さんはご機嫌に職員室へ向かって行った。

西条が笑ってくる。


「別宮さんってホンマいいキャラしとるわ」

「はは…、本当にね」

「本因坊はOKすると思うか?」

「どうだろうね…。父はあんまり海王好きじゃないしな。海王囲碁部って聞いただけで拒否して来そうだけど…」


葉瀬中には喜んで昔指導碁に行った父だけど、正直海王は無理だと思う。

まぁ父が拒否してくれるなら、僕はそれに従うまでだ。


「現国の補習1時間と引き換えは惜しいけどね」


一応僕は先に父にLINEしておく。


『海王囲碁部の指導碁頼まれると思うけど、嫌なら断ってくれていいから』と――

 

 

 

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