●MEIJIN 31●〜佐為視点〜
名人戦第4局の京都対局。
あまりに早く決着が着いたので、もう泊まらずその日のうちに新幹
良いか悪いか、結果一日スケジュールに余裕が出来た僕は、翌日は
制服に着替え、一階のダイニングに下りていく。
「おはよう、佐為」
と朝食を準備中の母に挨拶される。
「……おはよう」
昨日勝ったからか明らかに機嫌がいい母。
(くそ…、悔しい)
「おはよ〜〜」
彩も欠伸をしながら下りてきた。
「おはよう、彩」
「お兄ちゃん、今日一緒に学校行く?」
「……何で?」
なぜ僕が彩と一緒に学校に行かなければならないんだ……と突っ
彩が毎朝精菜と待ち合わせてることをハッと思い出す。
だから妹も誘ってくれたのだろう。
いい奴だ。
「行くよ、行く。もちろん」
朝食を食べ終えた僕らは身支度をして、「「行ってきます」」と一
電車に乗ったところで彩が思い出したかのように話し出す。
「そういえば昨日保健体育の講義あったんだよ。避妊のやつ。お兄
「……あったよ」
「昨日京田さんにも聞いたんだけど、男子校でもあったんだって」
「そりゃ男子校でも彼女出来るやつは普通に出来るからな…」
「高1の京田さんにはちょっと刺激が強かったみたい。可愛いよね
あの頃の京田さんまだ童貞だもんね〜と彩が笑う。
………悪かったな、童貞で。
僕ももちろん高1時点では未経験だ。
そりゃあもちろん……触りまくってはいたけれど。
「精菜、お兄ちゃんのこと信じてるからって言ってたよ」
「え?」
「お兄ちゃん、もし精菜が妊娠しても、あのDVDの彼氏みたいに
「……逃げるわけないだろ」
「だよね!よかった!あ、ちなみに京田さんも逃げないって。よか
この妹は彼氏に何を聞いてるのだろう…。
京田さんはコレ(彩)のどこがよかったのか、謎でしかない。
「…あの講義って結局はするなって言いたいんだろ?彩もちゃん
「してるもん!」
「いや、どう見てもしてないだろ」
「昨日はしなかったもん」
「あっそ」
そうこう言い争ってる間に学校の最寄り駅に着いてしまった。
改札を抜けるとすぐに目に入る愛しい恋人の姿。
「おはよう、佐為、彩」
「おはよう精菜」
「おはよ〜精菜〜」
久々に見る彼女の制服姿。
可愛くて可愛くてとんでもなく可愛くて、顔が勝手に緩んでしまう
「佐為、昨日は残念だったね…」
思い出して気分が一気に下がる。
「あ、ごめんね。禁句だった?」
「大丈夫だよ。イーブンに戻っただけだし。次頑張るよ」
「うん♪」
駅から海王高校までは徒歩7分だ。
あっという間に着いてしまう。
今日の放課後彼女の家に行けたらいいんだろうけど、今日は緒方先
でも、明後日から始まる天元戦の為に、明日は昼には先生は出発す
「また後でLINEするから」
「うん♪」
そう言って僕らは玄関前で別れた。
3年生の教室は本館3階。
久々に学校に来るが、クラスメートはいつも通り「おはよう、進藤
もちろん西条もだ。
「おはようさん、進藤」
「おはよう」
「第4局は散々やったな」
「次巻き返すから」
「そやな」
僕が席に着くと、西条は先生が来るまでいつも前の席に座って駄弁
もちろん棋士同士なので、会話の8割は碁についてだ。
「そういや昨日大盤解説会でサービスしたんやって?ネットニュー
「ああ…、解説会があんまり早く終わってしまっては来てくれてる
「そういうところがお前が人気の秘訣なんやろなぁ…」
「そう?普通だと思うけど」
「無自覚やなぁ」
昨日は珍しく大盤解説会の舞台上で検討をしてみた。
解説の社先生も混ざって一緒に検討出来たから、僕にとっても有意
なるべく分かり易い言い回しで解説したつもりでいたので、参加者達の感想も上々だったと聞いている。
今後ももし早く決着が付くようなことがあれば、またしてもいいか
(もうあんな負け方はしたくないが)
「そういや1年生、昨日例の講義受けたみたいやな」
「ああ…、そうみたいだね。さっき彩から聞いたよ」
「彩ちゃん何か言ってた?」
「京田さんは逃げないから安心だって」
「はは…、そういう意味の講義やないけどな」
僕らももちろん1年生の時に受けた性教育。
西条が
「で?進藤はあの時と状況が変わったわけやけど、考え方も何か変
とニヤニヤ聞いてきた。
この春に精菜とついに一線を越えた僕。
もし同じ講義を今受けたら、あの時とは違う感想を持っただろうか。
西条と話ながら、僕は2年前のことを思い返していた――