●MEIJIN 29●〜精菜視点〜
終局後、打ち上げも終わたので大浴場に行くと、入口でバッタリおばさんに
ちょっと気恥ずかしいけど、一緒に入ることにする。
浴衣を脱いでるおばさんをチラ見する。
(やっぱり細いなぁ…)
身長は私とあんまり変わらないおばさん。
でも体重はきっと10kgくらい違うんじゃないだろうか。
羨ましい。
打ち上げでも私は出された食事は全部完食してしまった。
溜め息が出る。
「どうかした?」
「いえ…」
体を流した後、一緒に温泉に浸かる。
長い髪をアップにお団子にしてるおばさま。
すごく綺麗で色っぽくて、おじさんが今でも愛しまくってる気持ち
「明後日はもう京都に移動なんですよね?大変ですよね」
「そうだね…、もうこういう生活には慣れてるけどね」
「そうですよね」
「ただ家族には申し訳ないけどね…」
「そうですか?」
進藤家にはお手伝いさんがいるから家事が滞るわけではない。
佐為も自分のことで忙しいし、そもそももう母親を必要とする歳で
彩だって同じだろう。
あ、双子ちゃんが寂しがってるとか?
あ、むしろおじさんが?
「えっと、おじさんが寂しそうにしてるんですか?」
そう返すと、おばさんが吹き出した。
「ヒカルはどうでもいいよ。寂しくなったら勝手に付いてくるし」
「ですよね…、そうですよね。この前の第1局の時もおじさん、お
「精菜ちゃんもね」
彼氏の母親に指摘されて、たちまちカーッと赤くなった。
「緒方さんから浴衣のツーショット写真のこと聞いたよ」
「え?!やだもう…、お父さんったら」
「箱根で撮ったの?」
「…はい。昼間は二人の写真全然撮れなかったから」
「そう…、佐為の人気には困ったものだね」
「仕方ないです。日本中どこ行っても佐為のファンっているし…」
「もっと楽な恋愛を選ぶことも出来たのに…、懲りずに佐為の傍に
――え?
楽な恋愛――そんなこと考えたこともなかった。
確かに私だって何人もの男子から告白されたことがある。
もしその中の誰かと交際していたら、今よりよっぽど楽な恋愛が出
デートだって誰の目を気にすることなく堂々と出来て。
もしクラスメートと付き合ったなら毎日のように会えるのだ。
想像して―――吐き気がした。
考えたくもなかった。
「私は佐為以外いりませんから」
他の人となんてありえない。
佐為としか交際したくない。
佐為だから体も許したのだ。
「でも…、私って佐為の好みの体型じゃないかも…」
「どうして?佐為がそう言ったの?」
「まさか。でも…、何となくそんな気がするんです。男の子って、
私とは正反対な体型のおばさん。
無駄に胸は大きいし、お尻だって大きい。
何か全体的にむっちりしてるのだ。
「んー…、とりあえず佐為の好みは僕ではないから安心して」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、幼少期を僕はほとんど佐為と過ごせてないからね。どち
「明子おばあさま…?」
「もちろん体型のことじゃなくて、父をいつも傍でサポートしてる
そしてそういう人と結婚したいんじゃないかな――と。
「それなら…、私でも可能性あるかも」
私は将来引退して、佐為を支えることに集中したいと思ってる。
料理も掃除も子育ても頑張るつもりだ。
もちろん、夜の生活だって――
「でも、やっぱりダイエットはしようかな…」
「そう?今のままで充分可愛いと僕は思うけど。佐為もそう思って
「じゃ…、佐為に聞いてみます」
温泉を出て、おばさんと別れて自室へ戻った私。
早速佐為に電話してみる。
『お疲れさま。残念だったな』
と開口一番女流本因坊戦の結果を言われる。
すっかり忘れていた。
「次また頑張るから」
『うん…、そうだな』
で、本題だ。
「ねぇ、佐為。私ダイエットした方がいいと思わない?」
『ダイエット?』
「なんかタイトル戦に出だしてから太ってきた気がするの。佐為だ
『………うーん。どうだろう…』
あれ?何か反応悪い?
「おばさんみたいに細くなるの」
『それは…、別にならなくていいんじゃないかな』
「どうして?」
『不健康だから。お母さん対局後とか昔結構倒れてたことあったし
「そうだったんだ…」
『それに…』
「それに?」
佐為が恥ずかしそうに本音を言ってくれる。
今の精菜がいい。
柔らかくて抱きついてるだけで気持ちいい。
ダイエットなんかして胸が小さくなったら困る。
……と。
カーッと顔が赤くなった。
「そ、そう?じゃあ現状キープでいこうかな…」
『うん…』
「佐為、明後日から京都だね。第4局も頑張ってね」
『もちろん』
「それ終わったら…、直にお父さんの天元戦始まるね」
『久しぶりに精菜の部屋に行けるの楽しみだよ』
「私も♪学校終わったら急いで来てね」
『なるべく急ぐよ』
お互い補講があるからもちろんそんなすぐには帰れないけど。
でも夜9時まではお母さんは絶対帰って来ないから、3時間はイチ
今から楽しみだ。
「お休み、佐為」
『お休み』
1時間くらい話した後、今日も私達は電話越しにチュッっとお休み