MEIJIN 23〜精菜視点〜





「お疲れ様でしたー」


大盤解説会の1日目が無事終了した。

いい時間帯なので、関係者が集まる夕食会がすぐにスタートする。

対局者の二人はルームサービスなので不参加だ。


「精菜ちゃんもお疲れ様!ほら飲んで飲んで〜」


芦原先生が私のグラスに烏龍茶をついでくれる。

一緒に楽しくお喋りしながら、私はこの後の入浴をどうしようかと悩んでいた。

私の部屋には内風呂なんてものはないから、当然大浴場に行かなければならない。


(他のお客さんと鉢合せたくないな…)


さっきの女の子達みたいに直接は絡んではこなくても、他にも大勢佐為のファンが泊まってるのだ。

一緒にお風呂に入ったら否応なしに裸を見られる。

また一方的に噂されるに決まってる。


(せっかくの温泉だけど…、部屋のシャワーで済ませるしかないか…)

 


「精菜ちゃん、後で一緒に卓球しない?」

「え?卓球…ですか?」

「温泉と言えばやっぱ卓球でしょ!あ、先生もいかがですか?」

隣のお父さんにも尋ねる。

「するわけないだろう」

「えー楽しいですよ?」

「酒を飲んでた方がよっぽど楽しいに決まってる」

「そうですかぁ?」


既にビールと日本酒と焼酎を飲み干してるお父さん。

少し顔も赤いし、だいぶ酔っ払ってるらしい。

こんな状態で卓球は危険だと思う。


「それはそうと精菜、この前はどうして帰って来なかったんだ?」

「この前って?」

「第1局の時決まってるだろう!」

「彩とホテルで女子会するってちゃんと連絡したでしょう?」

「その次の日だ!」

「……」


その次の日とはもちろん――佐為の客室に泊まった時のことだ。


「その日も彩と…」

「いいや嘘だな。俺は見たからな。彩君と一緒にあの進藤門下の彼氏が夜一緒に歩いてるところを!」


――え?


酔っ払ってテンションがおかしくなってるお父さんが

「くそ…っ、進藤の息子なんかに」

と愚痴り出す。

お父さんには佐為と過ごしたことをバレていたらしい。


でも――


「べ、別にいいんでしょう?私は佐為のものなんだから。お父さんが賭け碁で負けたんだから自業自得よ」

「何で賭けてしまったんだ俺は…!」


今更ながらに後悔していた。

知らないよ、もう。



「精菜、携帯を出しなさい」

「え?!な、何で?!」

「俺が気付いてないとでも思ったのか!」


お父さんに携帯を無理やり奪われる。

ヤ、ヤバい。

今の待ち受けはもちろん、佐為との浴衣ツーショットなのだ。


「何だこれは!!結婚前の娘がはしたない!!」

「か、返してよ!!」


芦原先生にも見られて、

「精菜ちゃん、コレはさすがにマズイよ。もし携帯落としたら大変なことになる…」

と言われてしまった。


「…はい」


シュンとなる。

でも先生の言う通りなので、待ち受けはとりあえず以前のものに戻すことにした。


その後も佐為のことを貶しまくるお父さん。

延いては佐為の両親についても愚痴っていた。

芦原先生が「先生、とりあえずもう一杯いかがですか?」とビールを注いでいた。

 


すっかり酔っ払ってしまったお父さん。

芦原先生と一緒に部屋に寝かせに運んだ後、

「これでよし!さ、卓球行こうか精菜ちゃん」

と誘われて一緒に卓球場に向かった。


「私したことなくて…」

「大丈夫大丈夫、教えてあげるよ」

「ありがとうございます」

 


ゲームセンター内に用意されている卓球場。

他のお客さんも結構使っていたが、ちょうど一面だけ空いてたのでそこを使わせてもらうことにした。


「あれ?あれれ?」


生まれて初めてする卓球。

全然ボールが当たらなくて空振りばかり。


「違うよ精菜ちゃん、ちゃんと面をこっちに向けて」


芦原先生が卓球のフォームを手取り足取り一から教えてくれる。


「こうですか?」

「そうそう、上手上手」


ボールが当たり出すと思った以上に楽しい。

二人で夢中になって続けていると、


「きゃー進藤十段!!」


と誰かが黄色い声を上げた。



――え?佐為?



振り返ると自販機横に浴衣姿の佐為が。

こっちを見てたみたいだけど、他のお客さんが騒ぎ出したので慌てて帰って行った。


「佐為、待っ――」

「駄目だよ、精菜ちゃん!」


佐為を追おうとしたら、芦原先生に腕を掴まれて阻止される。


「言っただろう?ここで佐為君に近付くなって。どこで誰が見てるか分からないんだからね?」

「だって…」


佐為の表情…いつもの彼じゃなかった。

思いっきりこっちを睨んでた。

もしかしたら何か勘違いをしてるのかもしれない。

ちゃんと誤解を解いておかないと、明日の対局に影響したら大変だ。


「離して…、芦原先生」

「駄目だ。悪いけど、佐為君より精菜ちゃんを優先させてもらうよ。男より女の子の方が被害が大きくなるからね」

「そんな…」

 

 


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