●MEIJIN 2●
家に帰るとダイニングにお父さんがいた。
ちょうど夕飯を食べ終えたところみたいだった。
「お帰り」
「た、ただいま…」
「今日は手合いの日か?夕飯は?」
「うん…勝ったよ。夕飯も適当に食べてきた」
「そうか」
「お父さん、私…今日久しぶりに彩んち泊まるから」
「――え?」
父が眉を潜めてくる。
当然だ、彩んちということはもちろん佐為のうち。
父は今日佐為が棋院で手合いなのはもちろん知ってるだろう。
(同じSリーグのメンバーとしてチェック済みだと思う)
手合いが終われば当然帰宅する。
「ほぅ…親に嘘吐いて外泊か。大人になったものだな」
「べ、別に嘘なんて吐いてないよ。彩が誘ってくれたからお泊まり会するだけ」
「で?彩君はあの進藤門下の彼氏の家にでも泊まる訳か」
「……え?」
ドキリとなる。
お父さん、どうしてそんなに鋭いの??
「まぁアキラ君も進藤も揃って留守と来たら、子供にとっては好き勝手する絶好のチャンスだからな」
「……」
「本当は佐為君と過ごすんだろう?」
「……分かんない。まだ佐為には何も言ってないから…」
「まぁ疲れてるから帰れとは言わんだろうな、アイツなら」
「……お父さん、反対する?」
「しないさ。既にお前は佐為君の物だからな。好きにすればいい」
「……じゃ、そうする。私…限界なの。最近ろくに会えてないし…」
「そういえば最近俺の留守中に上がり込むことも無くなったみたいだな」
「うん…だから私…限界なの……」
「……」
「じゃ…彩が待ってるからもう行くね」
「……ああ」
私は急いで自室に行き、バッグにお泊まりセット一式を詰めた。
出発前にもう一度お父さんに「行ってきます」と挨拶した。
「気を付けてな」とだけ返ってきた。
ピンポーン
10分後、再び進藤家を訪れチャイムを鳴らす。
カチャ
「はい」
……え?
玄関のドアを開けてくれたのは彩ではなく――佐為だった。
「精菜?どうしたんだよ、こんな時間に…」
「さ、佐為、帰って来てたの…?」
「うん…さっきな」
「そうなんだ…」
「…彩が『じゃ、頑張ってねー!』とか言って、どっか行っちゃったんだけど?」
「う、うん……京田さんち」
「はぁ??」
そ、そりゃビックリするよね…妹が堂々と彼氏の部屋で外泊するって言うんだから。
でもってきっと私にもビックリするよね……
「あの、佐為……今夜、泊めてくれる…?」
「……え?」
突然のことに、佐為が目を見開く。
と同時に頬を赤めてきた。
もちろん私の顔も真っ赤だ。
「と、とりあえず…入れば?」
と中に入れてくれる。
お茶を入れてくれるつもりなのか、彼はキッチンに立った。
「座って」と言われたので、私はリビングのソファーにちょこんと腰掛けた。
や、やっぱりいきなり押し掛けるのは迷惑だったんだろうか…。
そりゃ佐為も手合いで疲れてるよね…。
「手合い…どうだった?棋聖戦だったんだよね?」
「うん、勝ったよ」
「そ、そっか…よかった」
「精菜も勝った?」
「……私が今日手合いだって知ってたの?」
「うん。実を言うと、対局中に一度6階に行ったんだ」
「……え?」
「すぐ戻ったけどな。どうしても…精菜の顔が見たくなって」
――え?
佐為が入れてくれたコーヒーを私のすぐ前に置いた。
そしてすぐ横に座ってくる。
「精菜……」
ぎゅっと優しく抱き締められる。
「会いたかった…」
「本当…?」
「当たり前だろ。もう気が狂いそうだったよ…精菜不足で」
「佐為……」
私も抱き締め返した。
「私も限界だったの。だから押し掛けちゃった……ごめんなさい」
「どうして謝るんだよ、めちゃくちゃ嬉しいのに…」
「迷惑じゃなかった?」
「当たり前だろ。今更やっぱり帰るとか言っても、もう帰さないからな…っ」
キツく、私がもう逃げれないくらい強く抱き締めて来る。
そして髪に何度もキスを落とされた。
その唇はどんどん私の顔に近付いてきて……そして私の唇を塞いだ。
「――……ん……っ、んん…っ」
直ぐに侵入してきた舌に私の舌も絡めとられる。
深くて激しくて官能的なキスに、私の意識はどこかに行ってしまいそうだった。
でもキスだけじゃ全然足りない。
それはもちろん彼もきっと同じだろう。
「――…は…ぁ…」
口を離した後、佐為は私の手を掴んで二階に引っ張って行った。
向かった先はもちろん彼の部屋。
久しぶりの彼の部屋にドキドキする間もなく、ベッドに体を倒される。
そしてすぐに彼も跨がってきた。
(佐為のベッド……佐為の香りがする……)
何だか嬉しくなった。
「…なに?」
「ううん…佐為のベッドでするの初めてだなぁって」
「そうだな…」
「というか私達…まだ3回しかしたことないね…」
十段戦の後と、松山のイベントと、この前の温泉と。
「少な過ぎだよな…」
「本当にね…」
お互い苦笑してしまった。
「やっと4回目が出来る…めちゃくちゃ嬉しいよ…」
「私も…」
もう一度キスをして、私達は体を合わることにした――
NEXT(佐為視点)