●MEIJIN 19●〜精菜視点〜
誰かが私を呼ぶ声がする。
うっすら目を開けると――佐為が私の顔を覗きこんでいた。
「佐為…?」
「おはよう精菜」
ガバっと体を起こす。
昨日は佐為が先に寝ちゃってたので、私も添い寝するように隣で眠
カーテンの向こうからは朝日が差し込んでいて、時計を見ると6時
「ごめんな?昨日は睡魔に勝てなかった。精菜がシャワー浴びてる
気がついたら朝で、佐為も驚いたという。
「疲れてたんだし仕方ないよ…」
「うん、でももうすっかり疲れ取れたから。だから――」
今からしよう?
あまりにストレートに真っ直ぐ言われて、「え…」となる。
「慰めてくれるんだろう?」
と顎に手を添えられ、キスされそうになる。
「も、もう、慰めなくても、平気じゃないのっ?めっちゃ元気そう
「ううん、平気じゃない。全然元気じゃない。めちゃくちゃ落ち込んでる」
そう言って笑顔でキスを落としてくる彼。
あっという間に体を倒されて、
(本当に〜〜〜???)
と疑いながら私はされるがままになったのでした……///
一週間後、早くも名人戦第2局が開幕した。
舞台は一気に南下して九州。
夏休みが終わり学校が始まったので、私は休み時間ごとに携帯で行
「やっぱ熊本ラーメンかなぁ…。あ、この和菓子も美味しそう」
彩は隣でお土産をチェックしていた。
おばさんか佐為に頼むつもりなんだろう。
「お兄ちゃん今どんな感じ?」
彩が名人戦の状況を聞いてくる。
「うん、今回は結構いい感じ。佐為の狙い通りの展開になってると
「勝てそう?」
「たぶんね。余程のポカを佐為がしない限り。でも持ち時間も残っ
「よかった〜!お母さんに二連敗したら流石に奪取厳しいもんね」
「…そうだね」
「次は結構開くよね?2週間後だった?」
「うん」
「お兄ちゃんもやっと学校来れるね!」
始業式の日に顔を出してから、それ以降ずっと学校を休んでる佐為
でも対局はタイトル戦だけじゃない。
帰ってきてすぐ、次は王座戦の本戦トーナメント・決勝が待ち構えて
そう――つまり挑戦者決定戦だ。
これに勝てば進藤王座へのタイトル挑戦権も手に入れることになる
相手は窪田碁聖。
タイトル保持者同士がぶつかる、これまた見逃せない一局だ。
「勝てば両親とのダブルタイトル戦か〜。何か家の空気ヤバくなり
彩がゲッソリしていた。
「そういえば天元戦は緒方先生が挑戦者になったね」
「うん♪」
「お兄ちゃん、喜んでたでしょ?」
「ふふ…」
来月からスタートする天元戦挑戦手合は、父が挑戦者となり倉田先
関係のない佐為がなぜ喜ぶのか。
それはもちろん――
(お父さんが留守の間に私の部屋に来るつもりだからだ…)
先日の第1局後のホテルでのことを思い出して、私の顔がたちまち
「精菜顔赤いよ?エッチなこと思い出しちゃった?」
「だって…」
あの晩うっかり寝てしまった佐為。
翌朝起きてから求められたわけだけど。
(朝6時からチェックアウトの12時 までずっとエッチしてたなんて…流石に妹には言えないわ…)
朝ご飯も食べずにひたすら抱き合ってしまった。
「朝食は精菜でいいよ…」
と耳元で囁かれた時はどうしようかと思った。
ちなみにチェックアウトの時、ばったりフロントでおじさんとおば
「佐為今帰り?ずいぶんゆっくりだな」
「お父さん達もね」
横でおばさんがゲッソリしていたのは言うまでもない。
今回の第2局はおじさんも現地入りしてないから、おばさんもゆっ
「第3局は精菜が大盤解説会の聞き手担当だよね。いいな〜岐阜」
「お父さんが解説じゃなかったらもっとよかったんだけどね…」
「だよね〜。緒方先生いたら精菜、お兄ちゃんの部屋行きづらいよね
「内風呂…」
箱根の旅館には内風呂はなかったから、当然男女別れて大浴場に行
そうか…今度の高山の老舗温泉旅館には、上の方のランクの部屋
そしてタイトル戦で対局者が泊まる部屋は、その旅館で一番いい部
「……」
佐為が温泉に浸かる光景を想像したら鼻血が出そうになった。
(一緒になんて入ったら絶対のぼせそう…)
翌日。
佐為は順調に白星を掴み、名人戦を1勝1敗のイーブンに戻