●MEIJIN 18●〜精菜視点〜
「どうぞ大きな拍手でお出迎え下さい!」
終局後、対局者の二人が大盤解説会場に姿を現した。
本局の感想と次局への意気込みを司会者より求められる名人と佐為
二人とも疲れてるだろうに、プロ意識で笑顔を絶やさない。
負けて悔しいだろうに。
見に来てくれたファンへ精一杯のサービスをしていた。
「実は初めての二日制で考え過ぎて昨夜はあんまり寝れてないので
と最後にコメントした佐為に向かって、
「そうそ、何も考えずに寝るのが一番だからな!オレなんていつも
と師匠であるおじさんからのアドバイスには会場から笑いが起きて
大盤解説会が閉会したあと、暫くホテルの彩の部屋で時間を潰して
(彩の部屋といっても彼女はとっくに京田さんちに向かってしま
21時を回ったところでLINEが届く。
『今部屋に戻って来た。彩から聞いてると思うけど1401だから
携帯が手元に戻って来た佐為からのストレートなお誘い。
途端に頬が熱くなる。
身支度をしてエレベーターに乗り込み、14階のボタンを押した。
ピンポーン
チャイムを押して暫く待ってると、
「はい」
と彼の声とともにガチャリとドアが開く。
―――え?!
「精菜、早いな」
「さ、さささ佐為、なんでバスローブ姿なの?!」
「え?シャワー浴びてたらチャイムがなって慌てて出てきたから…」
誰にも見られないよう慌ててドアを閉めた。
髪がまだ結構濡れてる彼。
しかもバスローブ姿でもう色気がありまくりで、私は直視出来ずに
(これがまさしく水も滴るいい男ってやつ?!)
「佐為、早くドライヤーして着替えてきてっ」
「……精菜……」
――え
後ろから抱き締められる。
髪にチュッとキスされて、いきなりの抱擁に私の体は固まる。
「精菜…僕、結構落ち込んでるんだけど…。慰めてくれないの
「え…」
落ち込んでる?
この佐為が?
くるっと振り返り、彼の表情を改めて見ると……確かにどこかいつ
そりゃそうか…と思う。
今日はずっとずっと夢見てきた舞台だったわけだけど、それなのに
自分の母親に完敗したのだ。
いくら佐為でも落ち込まないわけがない。
「えっと…、とりあえず髪、乾かしてあげようか…?」
そう提案すると、くすりと笑ってきた。
「うん…、じゃあお願いしようかな」
パウダールームの椅子に座ってもらって、ドライヤーを当てながら彼の髪に触
(佐為の家に泊まった時以来だ…)
相変わらずサラサラなストレートヘアー。
香ってきたこのいい匂いはホテルのコンディショナーだろう。
私も昨日同じコンディショナーを使ったから、きっと今は同じ香り
でも、私とは髪の長さが違うからすぐに乾いちゃう。
「精菜もシャワー浴びてくる?」
ドライヤーを止めた瞬間に提案してくる彼。
ドキリとなる。
「うん…、そだね」
佐為から離れるようにそそくさとバスルームへ向かった。
佐為が泊まってるこのスイートルームは2人部屋だ。
バスルームの壁にはもう一つバスローブがかかっている。
(私もコレを着た方がいいのかな……)
でも、なんかバスローブって、いかにも今からエッチしますみたい
――それにしても
佐為だって入段以降結構な数を負けたけど、慰めてだなんて初めて
それだけ今回の対局は彼にとって大事なものだったんだろう。
一体何をすればいいんだろう。
何を求められてるんだろう。
ドキドキしながらシャワーを浴びて、ドキドキしながら私もバスロ
カチャ…
「お待たせ…」
バスルームを出ると、リビングに彼の姿はなかった。
ドキドキしながらベッドルームに行くと―――ベッドで眠ってる佐
(ええ?!なんで寝てるの?!)
(せっかく心の準備も体の準備もしてきたのに!)
(これがまさしく放置プレイってやつ〜〜?!)
仕方なくベッド脇に腰掛けて、佐為の寝顔を盗み見る。
「…可愛い寝顔」
さっき大盤解説会で、昨日はあんまり寝れなかったって言ってたも
さすがに疲れたんだろう。
私はヨシヨシと彼の頭を撫でた。
「お疲れさま…佐為」
七番勝負はまだ始まったばかりだ。
次も応援するからね。
悔いが残らない戦いをしてね。
チュッ…
昨日はポスターの佐為にこそっとしたキス。
今日は本物の佐為にこそっとキスをした――