●MEIJIN 15●〜精菜視点〜
ちょこっと覗きにいった大盤解説会。
おじさんと彩の、まるで漫才のようなやり取りの解説を微笑ましく
途中の廊下にも何枚も名人戦のポスターが貼ってある。
(……佐為……)
キョロっと見渡して誰もいないことを確認した私は――そっとポス
『おー!6の十三かぁ。まるで常識に挑戦するような手が出て来た
『名人はどう対応するんでしょう?』
『普通なら5の十三の一手だけど…。でも長考すると思うよ。誰
『なるほど〜』
15時になり、大盤解説会が再開した。
私は控え室のモニターからその様子を伺うことにした。
おじさんの解説のとおり、名人は30分以上の長考に入った為、先
おじさんが1〜500までの数字が入った箱から1枚1枚引いてい
色紙のプレゼントに入ってからは1枚引くごとに大きな歓声らや悲
佐為の揮毫は小学生の男の子が当選したようだ。
『おめでとうございまーす!一言どうぞ!』
彩にマイクを向けられた少年は
『今度院生試験受けるんだけど、いつか進藤十段みたいに強くなれ
と意気込んでいた。
たちまち大きい拍手で会場は包まれる。
院生試験か…懐かしいな。
お父さんに付き添ってもらって小4の時に私は受験した。
試験管だった白川先生は今でも師範を勤めている。
「僕も院生になった方がいいかな…」
私が合格した後、佐為がそんなことを言い出してビックリし
彩が柳さんに負けたからだ。
上には上がいるのなら自分も院生で勉強した方がいいのかもしれな
(佐為より強い院生なんて存在しないわよ…)
そんなに打ちたいなら彼らがプロになった後、打てばいい。
強い人は絶対試験を突破してくるんだから――と納得してもらった
『そっか〜院生かぁ!頑張れ少年!お兄ちゃんは院生出身じゃない
彩が男の子に向かって余計なことを言う。
『え?!そうなんですか?じゃあどこで勉強してたんですか?』
『ん〜…どこだろ?おじいちゃんち?』
彩がおじさんに向かって尋ねる。
『まぁあちこち、だな。色んなプロ棋士に打ってもらってたよ。強
『そうなんですか…』
『とりあえず君は院生で腕を磨きなよ。院生も楽しいぞ〜』
『ねー』
院生出身のおじさんと彩が、今度は院生についてトークをスタート
対局室のモニターに目を向けると、名人はまだ長考中だ。
佐為の目は鋭い。
正直厳しいと感じてるのかもしれない。
AIの評価値は僅差だけど、それ以上に黒が打ち辛い展開が続いて
というか名人の内回しが凄い。
チラリと佐為が名人の方へ視線を向けた。
それは自分の母親に向ける表情ではない。
好敵手――ライバルへと向ける表情そのものだ。
――いつか両親とタイトル戦で戦ってみたい――
(小さい頃から佐為が願っていた夢が今叶ってるんだなぁ……)
僕の夢は両親からタイトルを取ることだと、よく話してくれていた
あの頃はまだ夢物語だったけど……
(佐為…どう?自分の母親とタイトル戦を戦う気分は…)
緊張してる?
高揚してる?
それとも絶望してる?
もちろんまだ戦えると思ってるよね?
「封じます」
18時――記録係から用紙を受け取って、生まれて初めての封じ手
名人は疲れが出たのか下を向いたままだ。
自分が優勢だとはきっと感じてるだろう。
でも同時に少しの油断が命取りになる相手だってことは、嫌ってほど分か
佐為の強さは劣勢からの粘り、最後のヨセまで巧みに勝負に持ち込
佐為が対局室に戻ってきて、スムーズに1日目は終了した。
大盤解説会のモニターに目をやると、こちらもまとめに入ってるよ
明日は9時から。
『皆さん寝坊しないで下さいね〜』
という彩に
『お前もな』
とおじさんが突っ込んでいて、最後の最後まで笑いを誘っていた。
(対局室の空気とは正反対…)
彩とおじさんも今日はこのホテルに泊まるらしい。
私は帰るつもりだったけど、彩に引き止められている。
「実はツインの部屋用意してもらったんだ〜」
「え?」
「精菜と久しぶりに女子会したいなぁって、思って♪たまにはいい
「…もう」
仕方ないなぁ…と親友からの誘いを断れなかった私は、彩の部屋に