●MARRIED COUPLE 1●
「アキラお疲れ!」
山梨・甲府の老舗ホテルで行われた今回の王座戦・第二局。
アキラと伊角さんの勝負を、オレは大盤解説の会場で解説をしながら見守った。
第二局も無事勝利し、防衛に王手をかけた奥様の部屋を、夜も更けてきた頃に訪ねた。
「はぁ…」
と思いっきり溜め息を吐かれたけど。
「やっぱり来たんだな…」
「当たり前だろ〜。同じホテルに泊まってるのに別々に寝るなんて考えられないし。つか、最初から一緒の部屋でいいのにな」
「タイトルホルダーと解説者を同じ部屋に組むスタッフがどこにいるんだ…」
ぶつぶつ言いながらも入るのを許してくれる奥さまに嬉しくなる。
早速後ろから抱き締めて、うなじにキスをした――
「いい匂い…風呂上がり?」
「そうだけど……」
「じゃ、もうしよっか」
「……ぁ……っ」
首筋に唇を移して、キスして舐めて。
同時に浴衣の上から胸を揉んでまさぐっていく。
「ちょ…っ、ヒカ…ル…」
「なに…?」
「電気…消さないか?」
「やだ…」
絶対に嫌だ、オマエをよく見たいもん――と拒否をする。
「今更恥ずかしがる間でもないだろ…?」
「それは…そうだけど……」
一旦手を離し、アキラの手を取って布団の上に移動し、今度は前から抱き締める。
一人部屋だから用意されてる布団ももちろん一つ。
「布団でするの…因島以来だな」
と耳元で囁くと、アキラの顔がカッと赤くなった。
「今日は声、我慢しなくてもいいからな…?」
「も、そういうこと言うのやめてくれ…」
先々週の土曜日、オレとアキラは因島に旅行に行った。
幽霊の佐為のことをもしアキラに打ち明けることが出来たら、絶対に一緒に行きたいと思っていた場所だった。
もちろん二人っきりで行くつもりだった。
なのに――
「進藤、どこに行くつもりなんだ?」
「え?ちょっと……大阪?」
緒方先生との早碁オープンの後、京都駅で新幹線の下り行きのホームへ向かおうとしたところで先生に捕まってしまった。
「大阪?」
「ちょっと…アキラに会いに」
「ああ…アキラ君も昨日王座戦があったんだったな」
「そうそう。だから一緒に帰ろうかと思って」
「嘘を吐くな。一緒に帰るなら、アキラ君が京都に来た方が都合がいいだろうが」
「それは…そうですけど…」
「で?本当はどこにいくつもりなんだ?」
「……」
「言わないなら、佐為君と精菜の交際は認めないからな」
「え?!それ関係なくないですか?!」
「即効別れてもらう。嫌なら白状しろ」
「〜〜〜〜っ」
しぶしぶオレはアキラと新大阪で待ち合わせて因島に行くことを先生に話した。
まさか
「じゃあ俺も行く」
と言われるなんて思わなかったけど。
おまけに旅館も同じところに泊まるって言うし。
泊まるだけならいいけど、結局オレらの部屋で飲み出すし。
オレもアキラもホトホト困り果てた。
「進藤!分かってるのか?!」
「も〜分かってますよ!精菜ちゃんが大事なんでしょ?」
「何で進藤の息子なんかに…」
「でも先生、昔約束しましたよね?生まれる前に。女の子だったら佐為のお嫁さんに貰いますよって」
「忘れた。知らん」
「も〜都合が悪くなったらすぐ忘れるんだから」
ボケ老人かよ…。
「もういいじゃないですか、佐為で。親のオレが言うのもなんですけど、アイツ結構マトモですよ?」
「まぁ…お前よりはな。アキラ君の血のお陰かな」
「そうそう、だからもう佐為でいきましょ。どこの馬の骨かも分からない奴に取られるよりマシでしょ?」
「…まぁな」
「ほら、先生飲んで。嫌なことはもう全部忘れちゃいましょ。ほらほらほら……」
「――よし、寝たな」
オレもアキラも緒方先生がようやく寝てくれて、ホッと胸を撫で下ろした。
「でも流石に先生を部屋まで運ぶのは無理だな…」
「このままキミの布団で寝て貰う?」
「え?じゃあオレはどこで寝ればいいんだよ?」
「……仕方ないな」
アキラが手招きしてきた。
え?一緒に寝ていいの?マジで?
アキラの布団に入って、彼女に覆い被さった。
「…なぜ普通に上に乗ってるんだキミは」
「え?」
「緒方さんが横で寝てるのに、するわけないだろう?」
「え〜〜〜」
「当たり前だ!」
しぶしぶ上から降りて横に移動する。
「…同じ布団で寝るのに何も出来ないとか地獄なんですけど…」
「いいから、もうさっさと寝よう。キミも今日対局で疲れてるだろう?」
「そりゃそうだけど…」
せっかくアキラと旅行に来てるのに。
せっかく旅館に泊まってるのに。
この美し過ぎる浴衣姿のアキラを前にしてお預けなんて有り得ない。
寝ている緒方先生を睨み付けた。
でもオレからの殺意なんて気にもせずにガーガーと煩くイビキをかいている。
「……なぁ、ちょっとくらいなら、大丈夫じゃね?」
「…してる最中に起きたらどうする」
「じゃ、浴衣脱がずにしようぜ♪」
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