●TIME LIMIT〜結婚編〜 6●




――進藤が手合いに復帰した――



失踪が突然なら帰ってくるのも突然。

全く周りはいい迷惑だぜ!


「とか言いながら嬉しそうだな、和谷」

「あんた達仲良かったもんね〜」

と俺をからかうのは伊角・奈瀬夫妻。


そうだよ!

嬉しいよ!

決まってんだろ!


…にしても9年ぶりの復帰のくせに全く落ちてないコイツの棋力…。

冗談じゃねぇ…。

でもそれは9年前からちっとも成長してないことを示す。

それでも勝てない俺らは一体何なんだ?!って気もするけど、当然と言えば当然だ。

だって俺、失踪中にもネットで何十局って進藤と打ったけど、勝てたためしねぇもん。

でも当時から切磋琢磨して、どっちが勝つかは運次第…の塔矢や緒方先生、倉田先生、その他リーグ常連棋士にはさすがに差を付けられたみたいだ。

ま、人生そんなに甘くないってことだよな!


…とか言ってたら、復帰二年目にはあっさり王座のタイトルを奪取しやがった…。


んで新記録の五冠を取るのはそれから更に5年後の話だ。


…冗談じゃねぇぜ全く。

進藤の囲碁センスにはたまげる。

お手上げ!

囲碁を初めて2年足らずでプロになった奴の才能にはもう付いていけねぇ!



ちなみにそんなふざけた奴と俺との再会の第一声は、意外にも

「和谷!お前結婚したんだって?!」

というズレたものだった。

おいおい…いつの話してんだよ…。

もう5年も前なんだけど…。


「誰と結婚したんだ?」

「あー…森下先生の娘さんだよ」

「ああ、あの子かぁ。子供は?」

「いるぜ。幼稚園に通ってる男の子が2人」

「へー」

「お前は…塔矢と結婚したんだってな」

「おぅ!」

「つーかお前らの隠し子騒動にはマジ驚いた」

「塔矢にそっくりで可愛かっただろ〜?」

「…まぁな」


その後永遠と続いた愛娘の自慢話。

アイツがいなかったら今頃死んでたな、と恐いことをあっさり口にするお前。

天は二物を与えず、って本当だよな。

進藤には碁の才能が与えられてる代わりに、心の部分で大きなトラウマを抱えてる気がする。

娘さんがいてくれたからまだコイツは生きれてる。

今は塔矢もいる。

進藤を頼むな?

決して一人にはしないでやってくれ。

コイツは一人じゃ生きていけないんだ…―


「伊角さんは誰と結婚したんだ?桜野さん?」

「違う。奈瀬だよ」

「マジ?!」

「んなに驚くことでもねぇだろ?お前が失踪する前から付き合ってたし」

「知らなかった…」


ま、そりゃ知らないわな。

お前最後の方は5階ばっかりで、全然俺らと会わなかったし。


「本田さんも結婚したって塔矢から聞いたけど…」

「ああ、本田さんは事務の子とだよ」

「越智は?」

「アイツはいいとこのお嬢様と」

「へー。皆すげぇな…」

「お前が一番すげぇよ。あの塔矢アキラを手に入れたんだからな」

「へへ」


「…塔矢さ、ずっとお前のこと捜してたんだぜ?」

「え…?」


進藤の目が見開いた――


「留学から帰ってきてずっと…な。きっとその時からお前のことが好きだったんだよ。いや、たぶんもっと前から…な」

「でもオレ…アイツに振られまくってたんだけど…」

「バーカ。あの塔矢が何とも思ってない男の子供を産むと思うか?」

「………」

「ま、お前の失踪は無駄足だったってことだな」

「うん…そうかも…」

「落ち込むなって。これからいい家庭を築いたらいいじゃん。まだまだ間に合うって」

「うん…―」


塔矢とも俺らとも9年近く離れてた進藤。

無駄のように見えて…本当はその期間も無駄じゃない、意味があるってこと……ちゃんと分かってるよな?

向こうで得たものも色々あるだろ?

例えばお前と娘さんの揺るぎない絆…とかさ。

大事にしろよ?

娘さんも。

塔矢も。

もちろんこれから産まれてくるお前らの子供達も…――

















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