●TIME LIMIT〜母親編〜 3●
「……はぁ」
「珍しいですね、進藤先生が溜め息なんて。何かありました?」
「すみません…ちょっと」
どうしよう。
何て返事しよう。
指導碁中もそんなことばかり考えていて、思わず溜め息が出てしまった。
「オレ…結婚した方がいいと思います?」
「おや。先生にもついにいいお相手が見つかったんですか?」
マスターにおめでとうと言われてしまった。
果たして本当におめでたいのだろうか……
「でも別に好きなわけじゃないんですよね…」
「じゃあどうして結婚をお考えに?」
「オレ…娘が一人いるんですけど、やっぱ母親がいたほうがいいのかなぁ…って」
「ほう…娘さんが。まぁ両親が揃ってる方が理想と言えば理想ですけどね。でも今の時代は片親も珍しくないですしねぇ…」
「まぁそうなんですけどね…」
「娘さんに相談されてみては?」
「相談って…まだ3歳なんですけど」
「3歳でも割りかし色々考えてるものですよ」
「………」
…確かにそうだ。
マスターの言う通りだ。
3歳は3歳でも、千明はペラペラしゃべる方だし。
千明の為の母親だもん。
やっぱ千明に相談しないとな!
「きもちいいね〜」
「…なぁ千明」
「なぁに?」
一緒にお風呂に入ってる時に、思いきって聞いてみることにした。
「ママ…欲しい?」
「ちあきのママ?」
「新しい…な。優子先生がママになるの…どう思う?」
「ゆーこせんせぇ…?」
「千明も優子先生のこと好きだろ?」
「………」
…あれ?
千明の顔が曇った。
なんで……
「ゆーこせんせぇ…パパのことすき…」
「うん…そうみたい」
「ちあきもパパのことすき…」
「うん…?」
「ゆーこせんせぇにパパとられちゃう…いやぁ」
「え…」
千明が泣き出した。
オレに抱き着いてくる――
「パパはちあきのだもん…。ゆーこせんせぇいやぁ…」
「でも、ママ…欲しくないのか?」
「いらないもん…パパとられるならいらない…もん」
「千明…」
「ほんとの…ちあきのママならいいけど…、ゆーこせんせぇ…は、ほんとのママじゃない…もん」
「うん…そうだな」
「ゆーこせんせぇいやぁ…」
「分かった。分かったよ、千明。パパは千明だけのパパだから。優子先生とは結婚しない」
「パパぁ…」
最低だ。
千明を不安にさせてしまった。
でも……嬉しかった。
そうだよな…千明の母親は塔矢だけだ。
例え塔矢にその気がなくても、千明にとっては塔矢だけが母親なんだ。
他の女がママになるくらいなら、ママなんかいらない――そういうことなんだよな?
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