●TIME LIMIT〜母親編〜 1●
「やっべー!いつの間にこんな時間に!」
この春――千明が保育所に行き出したのを機に、オレは隣市の碁会所で指導碁のバイトを始めていた。
相手は弱っちいじーさん達だが、数になってかかってこられるとこれまた結構大変で。
今日の十面打ち3セットはさすがにへとへと。
でも、ちょっと楽しかった。
久々に持つ生の石はちょっと感動もので、打っても打ってもまだまだ足りないっていうか…………もう17時っていうか…。
やっべー!!!
「千明っ!ごめんっ!」
保育所に着くともう真っ暗で、先生と二人きりの千明が頬を大きく膨らましてオレを睨んできた。
「パパおそーい!」
「ごめんなぁ…ちょっと、仕事が…」
ぎゅっとオレの足に纏わり付いてきた。
あ…ちょっと涙目だ。
うう…ごめんな〜ダメなパパで。
「明日からはちゃんと時間通りに来るからな」
「…うん」
「帰ろっか」
「うん!」
「バイバイ千明ちゃん」
「バイバーイ」
千明と一緒に先生に手を振って、一緒に駐車場へと向かった。
「あのねー、ゆーこせんせぇねー、パパのことすきなんだってぇ」
「え?」
「ちあきもパパのことすき〜」
「オレも千明のこと好きだよ」
「えへへ〜」
この時は千明に好きと言われたことが嬉しくてサラリと流れてしまったが……ゆーこ先生。
ゆーこ先生とは、千明の担任の一人の成見優子先生のことだ。
さっき手を振った先生。
オレと同じ23歳。
もちろん独身。
まだ新米だから少し頼りない所もあるが、明るくて優しくて子供達から大人気の先生だったりする。
今の千明の一言で、やっぱりというか何というか。
男の勘が的中?
どうやらオレは優子先生に気に入られているらしい……
「パパ、バイバーイ」
「バイバーイ」
翌日――いつものように千明を保育所に送っていくと、オレらを見つけた優子先生がこっちにやってきた。
「千明ちゃんおはよ〜」
「おはよ〜」
「おはようございます、進藤さん」
「おはようございます…」
優子先生が、何かを言いたそうに口を開けてる。
「…あの、よかったら…今晩夕飯ご一緒しませんか?」
「え…?」
ちょっとだけ後ずさりしてみる。
「もちろん千明ちゃんも一緒に!進藤さん、お仕事でお疲れなのに帰ってご飯作るのって大変じゃないですか?私でよければ手助けをと…思って」
余計なお節介…と言いたかったが、あまりに真っ赤な顔で必死っぽかったので止めた。
取りあえず千明の意見を尊重。
「千明〜、今夜優子先生がご飯作ってくれるんだって」
「ホント?」
パアァと娘の顔が明るくなる。
「ちあきね、ちあきね、オムライスがいいな」
「じゃあオムライス作ってあげるね!」
はぁ……決定した模様。
内心複雑なまま、一応二人には笑顔で手を振ってバイトに向かった――
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