●MALE 1●
「僕、進藤のことが好きなんだ」
「……へぇ。そうなんだ…?」
問い返したオレに、塔矢はコクンと首を縦に振ってきた。
「その…良ければ、付き合って欲しいんだけど―」
「……」
付き合うって…このタイミングじゃあどう考えても『交際』の意味だよな?
困ったな…。
どうしよう。
今まで塔矢をそういう対象として見たことがなかった。
今までずっとライバルだったじゃん。
何で今更そんなこと言うんだ?
これからもライバルじゃダメなのかよ。
オレと本気で付き合いたいわけ?
それともからかってる?
…んなわけねーよな。
塔矢はそういう冗談を言う奴じゃないし、第一こいつの今の顔見たら、マジなのは一目瞭然だ。
真剣で…だけどオレの反応を不安げに見つめてる―。
頬を赤くして―。
…そりゃあオレはオマエのこと嫌いじゃないよ?
だけど別に好きでもないんだ―。
ライバルはしょせんライバル…。
碁だけ打ってくれたらそれでいい。
オマエもそういう気持ちだと思ってたのに…。
もしオレが拒否したら…オマエどうするんだ…?
何もなかったような顔して、今までと同じように毎日打ってくれる…?
無理?
オマエが精神的にも強いのは知ってるよ。
だけど…それでも…オマエだって女の子だもんな…。
フラれた相手と顔会わすのはキツいよな…。
オマエの気持ちは分かってやりたい…傷が癒えるまで待ってやりたいけど……でもそれじゃあオレは困るんだ。
今の伸び盛りの時期にオマエと打てなくなったら…困るんだよ…―
「…いいぜ、付き合おっか」
オレのその言葉を聞いて、塔矢はたちまち嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう―」
どういたしまして。
17歳の冬――オレは碁の為に塔矢と付き合うことにした―。
――だけどやっぱり断っておくべきだったんだ…
後であんなに後悔することになるなんて――
「進藤…キスして?」
「ん…」
付き合い始めて3ヶ月。
碁を打つ時間は前と特に変わりはない。
オフの日は碁会所か、オレの部屋か、塔矢の家で―。
今日も何局か打ち終わった後、塔矢にキスを求められた。
付き合い始めたと言っても、オレには元々その気はなかったから……スキンシップの面はいつもコイツの方から求めてくる。
キスは簡単で明確。
外にいる時は軽いフレンチ・キス。
人目につかない場所にいる時は少し深いディープ・キスになる。
ちなみに今は塔矢の部屋にいるから当然後者。
「…んっ、…んっ―」
お互い口内を舌で探って、絡め合っていく―。
徐々に体も引っ付けていくうちに、気持ちの方も高まってきて――
「ぁ…はぁ…―」
唇が離れた後、塔矢はオレの胸に抱き付いてきた―。
「抱いて」
と直接は言われないけど、この雰囲気や流れでコイツが求めてきてるのは分かるから……お相手することになる。
「…ぁ…―」
頭の上からつま先まで愛撫しまくって、時間をかけててコイツが満足するまで前戯を施す―。
「あ…っ、進藤…―」
「ん…もういい?…挿れよっか?」
「うん…」
塔矢は容姿もいいからオレがその気になるのは簡単。
「あぁ…んっ―」
今まで碁尽くしの生活で、彼女どころか好きな奴もいなかったオレは当然…塔矢が初めてだった。
確かに気持ちよくて…かなりいい思いさせてもらってると思う。
――だけど
オレは納得がいかない…。
なんだか打ってもらう為にコイツに奉仕してるみたいで―。
だけど機嫌をそこねて打ってくれなくなったら困るから……ちゃんと相手はする。
今は別にいいよ?
だけど一生このままだったらどうしよう…。
きっとそのうち
「結婚して」
とか言われるんだ―。
断ったら打ってくれなくなる…?
いや、それより気になるのが避妊の問題。
塔矢はいつも付けさせてくれない…。
「安全日だから」
ってオマエは言うけど本当だろうな?
間違ってたら出来ちまうんだぞ?!
まだ17で結婚も出来ねー歳なのに冗談じゃない!
それとも何か?
それを狙ってる…?
実は子供が欲しい…とか?
うわ、何だよそれ。
それじゃあオレは性欲処理の道具どころか、ただの種馬じゃんっ!
その上責任取らそうなんて考えてんじゃないだろうな?!
冗談じゃねぇっ!
もういいっ!
碁なんてもうどうでもいいっ!
さっさと別れてやるっ!
そう思った数日後――
オレは決意して塔矢家を訪れた。
「話って…?」
「塔矢、もうオレ達別れようぜ…」
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