●MALE 2●
「別れよう」
オレの言葉で塔矢は固まってしまった―。
「ごめんな…、オレ別にオマエのこと好きじゃなかったんだ。だけど…断ったらもう打ってくれなくなるんじゃないかと思って…無理してオマエと付き合ってた」
「……」
「だけどやっぱりそういうって変だよな…。オレもオマエも辛くなるだけだし」
塔矢が瞳に涙を貯めてきた。
いきなりごめんな…。
だけどオマエだって愛される喜びを知った方がいいと思う。
義理だけでこんな男に横にいられても…これから辛くなる一方だぜ?
「…そんなこと…知ってる」
「え?」
「知ってたよ…キミが僕を好きじゃないことぐらい…」
「そう…なんだ?」
「だけど僕にはキミしかいなかったから…キミの碁に対する情熱を利用した…。最低だよね、僕…。神聖な碁をこんなことに利用するなんて…最低だ」
「塔矢…」
「せめてキミに体だけでも満足してもらおうかと思ったけど…それも無意味だったみたいだね」
「…え?」
何言ってんだコイツ…。
満足してたのはオマエじゃないか!
オレは奉仕してただけだぞ?!
そりゃあ…確かに気持ちよかったのは事実だけどさ―。
「…分かった。いいよ、別れよう」
「え?いいのか…?」
「うん…。少しの間だけだったけど楽しかった。ありがとう―」
塔矢が涙を拭って、そう笑顔で言ってきた。
…なんか思ったよりアッサリ…だったな。
もっとこう…脅迫まがいの反論されるのかと思った。
いや、そりゃ別れれて嬉しいよ?
もうアイツの性欲処理に付き合って、嫌々抱かなくていいしさ…。
これからは自由だ!
だけど…
なんか…
しっくりしねぇ…―
「そんな不穏な顔しなくても、ちゃんと打つから心配しないで…」
「え?ああ…サンキューな」
そうだよっ!
コイツは打ってくれたらそれでいいんだっ!
別れた後も、オレ達は今まで通りに対局を重ねることが出来た。
前のライバルだけの関係に戻れたみたいで嬉しい―。
――だけど
なぜかオレの戦績は落ち始めてきたんだ。
不本意だけど…一番調子が良かったのは塔矢と付き合ってる時だった。
おかしいな…。
一緒に碁を打つ時間は全く変わってねーのにどうして?!
「進藤、今日の検討は時間かかりそうだから、僕の家でしよう」
「いいぜ」
別れてから約一ヶ月。
その「どうして?!」を今日理解することになる―。
「だからさ、ここを先に荒らしとけば中央が死にやすくなるじゃん」
「何を言ってるんだっ。そんな回りくどいことをしなくても、こう左から攻めれば黒は防ぎ切れない。こっちの方が5手分は得してる」
「オレは一気に広げたいんだって!細々するのは嫌いなの!」
「ふざけるなっ!そんな我が儘言ってたら今度の世界王座、予選落ちするぞ!」
「しねーよっ!甘くみんなっ!」
いつも通り検討という名の口論が終わった後、時計を見ると12時を過ぎていた―。
「いけねっ!終電14分なのに…間に合うかな」
バタバタ帰る準備を始めたオレに、塔矢はサラッと言ってきた―。
「たぶん間に合わないよ。泊まっていけば?」
「え?あー…そうだな。オマエがいいならそうさせてもらうか」
「うん、別に構わないよ。この家って客間だけはたくさんあるから」
客間…。
そりゃそうか…オレらもう付き合ってねーんだもんな。
今まではここで泊まると言えば当然塔矢の部屋だったから…何か変な感じだ。
風呂に入った後、お互いパジャマ姿でもう一局打った―。
コイツのこの格好…久しぶりに見たな。
オレはこのパジャマのボタンのはずれ易さを知ってる…。
中の肌の感触も…暖かさも…気持ちよさも…全部知ってる―。
…でももう触れることは出来ないんだよな。
それが彼氏とただのライバルの違いだ。
何ガッカリしてんだよオレ…。
自分が望んだ結末じゃん。
今まで仕方なく抱いてたんだろ?
コイツに奉仕してるみたいで嫌だったんだろ?
「…僕の1目半勝ちかな?もう遅いし、検討は別にいいよね」
「ん、そうだな」
お互いガチャガチャ碁石を片付け始めた。
たまに指が触れて…ドキッとする―。
…もっと…触りたい。
指だけじゃなくて…他の所も全部―。
「じゃあお休み、進藤」
「……お休み」
パタン
障子を閉められた途端、オレは自分の気持ちを自覚した。
オレってアイツのこと…嫌々抱いてたわけなかったんだ…。
その証拠に今すげー抱きたい。
そりゃもう一ヶ月もしてなくて、欲求不満なせいもあるのかもしれないけど―。
アイツ別れる時に言ってたよな…
「体だけでも満足してもらおうかと思ったけど…」
って―。
ああ、そうだよ!
満足してたよっ!
心身共にな―。
オレの戦績が下がったのは…たぶん今は体の方が満たされてないからだ―。
何だかんだ言いながら、オレだってしっかりアイツの体使って処理してたんだ―。
そして一度でも女を知ってしまったオレは……もう二度と自分一人では満足出来ない―。
だから次第にストレスが堪って……結果、碁に影響するんだ。
「…塔矢、まだ起きてる?」
「進藤?」
アイツの部屋にまで向かって…声をかけた。
ガラッ
「どうしたんだ?寝れない?」
「うん…一人じゃ寂しくて、さ」
「え?――きゃっ」
いきなり抱き付いてきたオレに、塔矢は体を強張らせた―。
「なぁ…一緒に寝てもいい?」
「え…―」
顔を真っ赤にして、塔矢はオレを引き剥がしにかかった。
「な、何を言ってるんだっ!僕たちはもうそんな関係じゃないんだから、無理に決まってるだろ!」
「じゃあもう一度付き合ってよ」
「え…?」
少し嬉しそうに塔矢はオレの顔を覗いてきた。
「…いいの?だってキミ…僕のことなんか好きじゃないんだろ?また辛くなるだけじゃないのか…?」
「いいんだよっ!オレはオマエが碁以外でも必要だって分かったんだ!」
だから今度は辛くなんかない。
絶対に―。
「…でもさ塔矢。せめて避妊はさせてくれよな?子供なんかいなくてもオレ…今度は別れたりしないから―」
「あ、やっぱりバレてた?」
「バレバレだって。オマエ安全日だらけじゃん」
「うん…じゃあ今日からはしてもらおうかな。ホント言うとね、僕もこの歳で産むのはちょっと不安だったんだ。キミに認知されない可能性だってないわけじゃなかったし」
「いや、オレそこまで酷い男じゃねーし。ちゃんと責任は取るよ?」
塔矢が微笑んで、抱き付いてきた―。
「そうだよね。そんな優しいキミだから、僕は好きになったんだ―」
オレもオマエのそんな積極的なところが好きだよ―。
―END―
以上、「FEMALE」逆バージョンでした〜。
もし告白したのがアキラだったらどうなってた??な感じで書いてみたんですが…
なんつー内容…(=_=;)何してんのアンタら…。
んー、でも意外とこっちでも良かったかもしれませんね(笑)
ヒカルがアキラ好き好きvな方が書きやすいですが。
この話は体で勝ち取った!みたいな感じですので(笑)ど、どうなのソレ…。
まぁこれから愛を育んでくれたらOK!です!