●MAIN BATTLE 7●





プロ試験5日目は僕達3人も、京田さん柳さんも全員勝利した。

ここまで僕、精菜、京田さんが全勝。

彩、柳さんが一敗。




そして6日目、今日また重要な対局がある。

彩vs精菜の直接対決だ――








「いよいよ精菜とだね…」

「そうだね…」

「頑張ろうね…」

「うん…」


朝、いつも通り精菜と待ちあわせて棋院に向かう。

二人ともどこかぎこちない。

意識してるんだろう。


特に彩は今日負けると2敗。

まだ6戦目にして2敗はかなり痛い。

例年プロ試験に合格してる人は3敗、多い年でも4敗まで。

何としてでも勝ちたいところだろう。


でも――実力では精菜が上だ。

普通に打てば精菜が勝つ。

ただ昔から精菜は彩に遠慮してるところがある。

今日はどうするつもりなのか……











対局開始3分前。

彩と精菜が向かい合って座る。

(ちなみに僕は偶然にも隣の席だ)


「精菜、本気で来てよ」

彩の目は険しく、超本気モードだ。

「もちろん。私、佐為とプロになるって決めたから」

精菜も緒方先生譲りの勝負師の目付きになる。



「「お願いします」」




僕の方も今日の対局相手、院生10位の美輪さんと挨拶して打ち始めた――








パチッ パチッ パチ…


盤面が20手まで進む。

ここまで打てば相手の実力は分かる。

やはり10位の実力そのままだろう。

美輪さんが長考し出したので、僕はチラリと隣の盤に目を向けた。


彩が黒で精菜が白。

僕らと同じく20手くらいまで進んでいる。

優勢はやはり白。

中央に大きく陣地を張り巡らしている。

さて彩がこれからどう切り込んでいくか…



パチッ


美輪さんが打ったので、僕もすぐにまた次の一手を打った――













「ん〜〜」

休憩時間になり、彩が大きく背伸びしながら控え室に移動する。

「厳しいな〜精菜やっぱ強い〜」

精菜は少しだけ口許を緩める。

「どうしよっかな〜悩む〜」

「彩、早く食べないとあっという間に休憩時間終わるぞ」

「わ、ホントだ」

彩は持ってきていたサンドイッチに慌ててかぶり付いた。

食べ終わると、いつものように京田さん達のところへ行って駄弁り始める。

ちなみに京田さんも柳さんも今日の相手は外来から上がってきた二人。

普通に中押し勝ちするだろう。

もちろん僕も。

(というか本気で打てば午前中で終わらせることが出来たと思うんだけど、それでは彩達が終わるまで時間が余り過ぎるのでわざとゆっくり力半分で打っている)



ちなみに両親は今朝また、名人戦第四局の会場である石川に向かっていった。

今日は帰っても誰もいない。

夕御飯どうしようかな…と悩む。

僕が中学に入ってからは両親の遠征中も祖父の家に行かなくてもよくなった。

明日も学校あるし、彩と適当に食べに出るのもいいかもしれない。

でも両親が帰ってくるのは水曜だ。

外食ばかりもなぁ……



「佐為、何悩んでるの?」

精菜に聞かれる。

「今日の夕飯…」

「あ、そっか。おじさんもおばさんも名人戦かぁ」

「うん、石川。粟津温泉って言ってたかな…」


昼頃には現地に着くとか言ってたから、そろそろ着く頃だろうか。

母と一緒に温泉ってことで、今朝の父はテンションがおかしかった。

幸せな父だとつくづく思う。


「あ。じゃあ、私が夕ご飯作ってあげようか?」

「――え?」

「何が食べたい?」

「マジ?いいの?」

「いいよ。最近お母さんに習ってるんだ♪」

「じゃあ…ハンバーグがいいな。あんまりお母さん作ってくれないから」

「オッケー♪」




精菜の手料理。

楽しみすぎて、僕は昼からの対局うっかり本気を出してしまい、美輪さんは早々に投了した――










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