●MAIN BATTLE 32●





取材が思ったより延びて、僕と京田さんが家に着いた頃には17時を回ってしまっていた。



「ただいま」

「お邪魔します…」


と二人で中に入ると、パーン!!といきなりクラッカーが鳴る。


「合格おめでとうお兄ちゃん!京田さん!」

彩の後ろに両親の姿も。

「おめでとう、佐為。頑張ったね」と母。

「おめでとう!早く上に上がって来いよ!」と父。


そして父は直ぐ様京田さんの前に移動した。


「京田君もおめでとう」

「あ…ありがとうございます!」

「じゃ、打とうか」

「はい…!」


父と京田さんが和室に移動する。

碁盤を挟んで座り、二人は向き合った。



「京田君はいくつだっけ?」

「16です」

「ふーん、5つも上か」

「え?」

「彼女は?いないの?」

「えっ…?いない…ですけど」

「ふーん…一度も?」

「まぁ…そうですね…」


京田さんが僕の方を見てくる。

え?何?入門するのにこんなテストもあるのか?棋力だけじゃなく?……という顔。


……ごめん。

本当にごめんなさい。

僕達兄妹のせいです…。



「初恋は?」

「えっ?!ど、どうだったかな…」

京田さんが記憶にないのか、首を傾げた。


「今好きな人くらいいるだろ?」

「いえ、別に…特に……俺男子校だし…出会いとかあんまり…ないし…」

「じゃあ、院生の女の子で誰が一番タイプ?」

「い、院生ですか?うーん……どうだろう…」

あんまり考えたことなかったです……と、小さな声で答える。


「…京田君て女の子に興味ないの?」

「きょ、興味……?は、そりゃ人並みにはありますけど…、中学年入ってからずっと囲碁漬けだったし…。プロ試験に向けて必死だったから…」


京田さんの頬にまで汗が滴るのが見えた。



「――ヒカル。いい加減にしろ」


キッチンで聞いていて耐えられなくなったらしい母が父にヅカヅカと詰め寄った。


「キミは一体何のテストをしてるんだ!」

「何って、素行調査だよ。タラシを弟子にするわけにいかねーもん」

「そんなことは自分の素行を直してからにしろ!」

「オレのどこが?!こんなにアキラ一筋なのに!」

「うるさい!いいからさっさと対局を始めろ!」

「わ、分かったよ…」


京田さんが両親の会話を聞いてポカンとしている。

京田さんの中の父への憧れ度がきっと10%は下がったことだろう。

もちろん尊敬度も。



「じゃ、じゃあ…最後にもう一問だけ」

「あ、はい…」

「彩のことはどう思ってる?」

「え?どうって……どうって……?」


今度は彩がヅカヅカ和室に向かう。


「もうお父さんやめてよ!お父さんなんて大嫌い!!」


うわーん!と二階に上がって行ってしまった。

娘に嫌われた父はショック顔をしていたが、すぐに視線を京田さんに戻し、タイトル戦並の険しい目付きで彼を睨んだ。


「で?どう思ってんだよ?」

「どうって言われても…。そりゃ、可愛いとは思いますけど…」


そりゃ可愛いだろう。

何度もスカウトされたことがある彩の顔立ちは、その辺のアイドルなんか比じゃない。


でもその回答が癇に触ったらしく、

「彩に手を出したら破門だからな!!」

とまだ入門もしてないのに父は叫んでいた。


でもって母に再び

「いいから早く打て!!」

と怒鳴られ、父はようやく京田さんと

「「お願いします」」

と対局をスタートさせたのだった……











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