●MAIN BATTLE 11●
「ただいま…」
プロ試験7日目。
午後から予定通り対局相手である麻川さんを10分で瞬殺した僕は、彩や精菜が終局するのを待たずに家に戻った。
(彩達には先に帰るとメールしておいた)
「お。今日佐為早いじゃん、お帰り〜」
勝った?と当たり前のことを聞いてくる父を少し睨んだ。
「恐っ!なに怒ってんだよ〜。まさか負けた?」
「そんな訳ないよ。僕は『佐為』なんだし」
嫌味っぽく言い返すと、父が目をぱちくりさせた。
「あー…もしかしてこの前の話、気にしてる?」
「別に」
「いや、気にしてるだろ。最近お前変だし…」
「変なのはお父さんだろ?!」
「え…」
「よく家族にあんな嘘吐けるよね?幽霊なんて本当にいると思ってるの?」
「佐為は、本当にいたんだって…!」
「よく出来た話だよ。お父さん、棋士になんかならずにシナリオライターにでもなればよかったんじゃない?」
――違う。
何を言ってるんだ、僕は。
父の話は真実だ、本当は分かってる。
なのに、イライラして口が止まらない――
「お母さんは騙せても僕は騙されないからね」
「佐為…」
「その名前で呼ばないでよ!だいたい普通子供に同じ名前付ける?!一体どういうつもりなんだよ!僕を何だと思ってるんだ!!」
「……ごめん」
「謝るくらいならもうちょっと考えてから名前くらい付けてよ!だいたいお父さんはいつも単純で考え無し過ぎなんだよ!!何で17で僕を作ってるんだよ!!」
父の横をすり抜けて、僕は階段を一目散に上がった。
自分の部屋のドアを乱暴に閉める。
部屋の中央に置かれている碁盤が無性に腹立たしくて、一瞬蹴飛ばしてやろうかと思った。
「…僕の足の方が折れそうだ…」
諦めてドサッとベッドに腰掛け、そのまま倒れるように横になった。
……疲れた……
明日もプロ試験がある。
面倒くさい…不戦敗にしてやろうか。
相手は誰だ?
確か…小松とかいう院生。
京田さんが2日目であたった時、苦手だと言っていた人。
打つのが遅いらしい。
面倒くさい…明日くらい早く打ってくれないかな。
やっぱり休もうかな…一日くらい休んでもきっとプロにはなれる。
「…………」
僕は根が真面目すぎるんだろう。
やっぱり明日も行こう。
行って速攻終わらせようと思いながら、一眠りすることにした。
♪〜♪〜〜♪〜♪
何時間眠っていたんだろう。
僕は携帯の着信音で目が覚めた。
この曲は精菜だ……
「……もしもし」
『佐為?』
「うん…」
『あ、ごめん。もしかして寝てた?やっぱり調子悪いの?』
精菜の優しい声に少し癒されて、僕は体を起こした。
「大丈夫だよ。今日先に帰ってごめん…」
『ううん、全然気にしないで。私も佐為が帰ってから2時間近くかかったし…』
「勝った?精菜の相手誰だっけ?」
『えー…私朝から何回も話したよ?今日は京田さんとだよ…』
え?!
「本当に?!で?どうだったんだよ?」
『負けちゃった…。1目半負け…』
「そっか……残念だったな」
『私が院生研修休んでる間にこんなに強くなってたんだって…後悔した』
「休んでたことを?」
『うん…』
「ごめんな…精菜僕のせいでわざと休んでたんだもんな…」
『私の方こそ!もっと電話とかメールして、ちゃんと伝えれば良かったのに、ごめん…』
「じゃあ…今伝えてみて?」
『え?』
「あの時みたいに言ってよ」
『……』
精菜がしばらく沈黙する。
きっと今頃顔真っ赤なんだろうな…。
可愛いな…。
『佐為…キスしてくれる?』
もー!何言わすの!と電話の向こうで怒っていた。
「ごめんごめん。じゃあ前みたいに、いち、にで電話越しにしようか」
『直接がいいな…』
「……」
時計を見ると、まだ18時だった。
「いいよ、10分待ってて」
僕は直ぐ様部屋を飛び出した。
階段を降りるとリビングに父がいるのが見えたけど、僕は無視して家を出た――
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