●MAIN BATTLE 1●





「じゃ、二人とも頑張ってこいよ」

「うん、行ってきます!」

「行ってきます」


父に見送られて、僕と彩は一緒に家を出発した。

いよいよ今日から始まるプロ試験、本戦。

合同予選を通過した6名と、院生1位〜10位までの合計16名で行われるリーグ戦。

持ち時間は一気に長くなって2時間半。

上位3名が本採用となる――




「あ〜緊張してきたぁ。ドキドキドキドキ」

「口でドキドキ言うなよ…」

「お兄ちゃんは緊張してないの?」

「してるよ」

「ホントにぃ?」


市ヶ谷駅の改札を出たところで待ち合わせていた精菜とも合流。

3人で棋院に向かった。


「精菜は初戦は誰と戦いたい?」

「え〜誰でもいいけど、彩と佐為だけは嫌だなぁ」

「あはは、私も〜」


精菜はこの中で唯一本戦出場の全員と既に対局経験がある。

彩は外来予選から上がってきた2人と、僕は彩以外の予選免除組の院生9人と打ったことがない。

うーん…もしかしたら僕が一番不利かもしれない。










「進藤佐為だ…」

「やべぇオーラがすげぇ…」

「無駄に美形だよな…さすが進藤先生と塔矢先生の子供っていうか…」

「初戦で当たったらどうしよう…」


初日のこのパターンも3回目だ。

もう慣れた。

チラリと控え室にいる全員の面子を確認する。

ほぼ中高生。(小学生は彩と精菜だけだな)

男女比も14対2と、女子は二人だけ。



「あ、京田さんだ。おはようございまーす」

「おはよう、進藤。いよいよだな」


彩が奥に座ってるグループの方に挨拶に向かった。

白川先生が精菜が休みの時は一緒に昼食をとってると言っていた人達だろう。


「あの背の高い人が京田昭彦。今の院生2位。高校1年生だよ」

と精菜が説明してくれる。


「緒方さん、俺にも彼氏紹介してよ」

と言ってソイツがこっちにやって来た。

彼氏と言われて精菜の顔がたちまち赤くなった。


「えっと…知ってると思うけど、彩のお兄さんの進藤佐為だよ」

「初めまして。お噂はかねがね。名人に似てるね」

「…初めまして」

「緒方さんとの予選の棋譜見たよ。さすがだね」

「…どうも」

「ま、本因坊や名人と毎日打てる環境を考えたら当然かな。本当羨ましいよ」

「……」

「君との対局が一番楽しみだ。どうぞよろしく」

「こちらこそ」


やっぱオーラが違うねぇ、と言って元いた場所に戻って行った。

何とも刺のある言い方をする奴だ。


「精菜、アイツの棋力ってどのくらい?」

「んー、彩といい勝負かなぁ。あ、でも結構な妙手の使い手だから気を付けた方がいいよ」

「妙手?」

「新手を考えるのが好きみたい。あ、憧れの棋士はおじさんだよ」



――え?



「院生になったばかりの頃、休憩室で京田さんが何人かと話してるのを盗み聞きしたことあって…」


憧れの棋士は誰か、という会話だったらしい。

京田さんは「進藤ヒカル」と父の名前を迷うことなく挙げたのだという。

もし本因坊秀策に弟子がいたら、きっと父みたいな人だと絶賛していたらしい。

自分もそんな父の弟子になりたいと。

でも実際は父は門戸を開いていない。

ゆえに父と毎日でも打てて教えを乞うことが出来る僕達兄妹が妬ましいのだとか。


「へぇ…なるほどね」

(彩に近付いてるのはその為か?)

「あ、今京田さんが話してるのが3位の柳さん。お父さんが台湾人のハーフだよ。この夏休み、プロ試験の為に向こうで結構勉強してきたみたい」

「彩が院生研修初日に負けた人だよな」

「うん」


精菜がその後も4位〜10位まで一人一人説明してくれる。

(思ってたよりいいメンバー揃ってるな。これなら…)


「佐為…嬉しそう」

「え?」

「佐為、強い人と打つの好きだもんね」

「…まぁな」

「あ、白川先生来たよ。抽選始まるね」

「ああ」



強い相手と打つ。

これ以上に楽しいことはない――








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