●LOST LOVE 4●
「しばらくここに居てもいい…?」
抱き合って眠りながら、塔矢が遠慮気味に聞いてきた。
「…別にいいけど」
「緒方さんを忘れられたら帰るから」
「それってもし忘れられなかったら一生いるってことか?」
「はは、それもいいかもね」
「…でもオレ、言っとくけど容赦なく毎晩襲うぜ?」
「……いいよ。ここに置いてもらうお礼」
この日から、オレと塔矢は一緒に住み始めた。
今までもよく二人で打ってたから結構一緒にいた方だけど、今は朝から晩までまるで夫婦のように一緒にいる。
コイツの料理意外と美味いし、ますます打ち放題だしエッチし放題だし、なんかすごく得した気分。
本当にずっといてくれたらいいのに―――
でも……塔矢が好きなのは緒方さんなんだ。
緒方さんのことを忘れたら帰っちゃうんだ。
なんか複雑。
嬉しいようで嬉しくない。
代わりにオレのこと……好きになってくれたらいいのに―――
「よう、進藤。順調か?」
「緒方先生………おかげさまで」
塔矢と住み始めてから一週間後、地方のイベントで緒方先生と一緒になった。
塔矢から先生との色んな逸話や惚気を聞かされたオレは、怒りと嫉妬で自然と目が細くなっていく。
「どうした?恐い顔して」
「別に……結婚おめでとうございます」
「まだ婚約だけだがな。ちょっと話さないか?」
「いいですけど…」
緒方先生に連れられてロビー横の喫茶店に入った。
タバコに火をつけ、オレにも進めてきた。
緒方先生と同じタバコなんて吸ったら同じ臭いになっちまう。
絶対に御免と断って、自分のを吸った。
「棋聖を取ったらな、結婚しようと考えていたんだ。ようやく叶った」
「なーんだ。緒方先生のことだから、てっきりデキ婚かと思ってました」
「はは、そんなヘマはやらんよ」
「………」
「…アキラ君とは仲良くやってるか?」
「え?」
塔矢の名前を出されて、思わずタバコを落としかけた。
慌てて灰皿で潰す。
「明子夫人から聞いたよ。お前の所にいるんだってな?」
「そうですけど…」
「いい女だろうアキラ君は」
「………」
「だが俺には重過ぎた。師匠の娘さんにはやはり手を出すんじゃなかったな」
「…塔矢先生が知ったら殺されますよ?」
殺されればいいのに―――
「ああ、だからアキラ君には早くいい奴を見つけてほしい。進藤…頼んだぞ?」
「オレに責任転嫁しないで下さい。オレはただ…アイツが可哀相で……」
「本当にそれだけか?」
「…何かと便利だし……」
便利だから、ずっと居てほしいのは確か。
でもただ便利な奴に一生居てほしいなんて思わない。
あんなに甘い言葉で口説いたりしない。
好きになってほしいなんて思わない。
オレ…やっぱりアイツのことが好きなんだ。
好きになってきてるんだ―――
「顔が赤いぞ?進藤」
「…後で返せって言われても、絶対に返しませんからっ」
緒方先生の目がニヤッと笑う。
笑われたっていい。
絶対にアンタには返さない。
塔矢はオレのものだ―――
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