●LOST LOVE 2●
――慰めて――
抱き着かれたまま押し倒されて、オレは塔矢を下から見上げる形になった。
「進……」
「…ん…っ―――」
唇が重なって、柔らかい体を押し付けられて、理性が今にも飛びそうになる。
「…んっ、ちょっ…オマ…、待てって…、落ち着けっ」
「お願い…今晩だけでいいんだ…」
「よくねーよ…!オレ、オマエとだけはヤらねーって決めてるしっ」
「でも体は反応してる」
気持ちとは裏腹に大きくなった下半身を撫でられて、カッと顔が赤くなる。
「これは…その、オレの意志とは関係ないっていうか…」
「緒方さん以外の人に抱かれたら…忘れられそうな気がするんだ……頼む進藤…」
「………」
「今夜のことも全部忘れるから…」
「全部…?」
「ああ」
「…絶対だぞ?」
彼女が頷くや否や、頭を引き付けて噛み付くようなキスをした。
「ん…っ、ん…ん…――」
この部屋に入った時点で本当はこうなることを期待してたのかもしれない。
絶対に手を出しちゃいけない相手なのに。
こういとも簡単に絡みあってしまう自分が情けない。
柔らかい二の腕…胸…尻。
魅力的な彼女の容姿がオレの思考を狂わせる。
「あ…ぁ…っ、…ぁんっ…は…」
ただの雄と雌化したオレらは、ベッドに移動してからひたすら体を重ねていた。
何度もイって、イかせて、中にも外にも出しまくって――
「進…ど…もう…」
「やだ。まだ寝かせねぇ…」
「あぁ…っ…――」
途中で気を失ってそのまま眠りに落ちた塔矢の額に、優しいキスをしてみた。
はぁ…と溜め息が出る。
「何やってんだろ…オレ」
「…ん…」
翌朝―――目が覚めると横に塔矢の姿はなかった。
一瞬夢だったのか?とも思ったが、サイドデスクに置かれているアイツからのメモが目に入った。
『ありがとう』
と一言だけ。
「別に……」
これで……終わり。
ホッとするような、妙に寂しいような…変な気分だ。
深く考えるのはやめよう…と、オレも着替えてすぐにホテルを後にした――
「進藤!聞いたか!?緒方先生ついに結婚するんだってさ」
「ふーん…」
午後に用事で棋院に行くと、院中がその噂で持ち切りだった。
お相手はもう何年も前から付き合ってる女医だとか。
他にもモデルだとかどこかの社長令嬢だとか、色んな女と噂があった緒方さんだけど、塔矢との浮いた噂は一度も聞いたがことなかった。
出版部に立ち寄った時に、偶然取材中の塔矢や芦原さんが目に入った。
ごく普通に妹弟子として
「おめでとうございます」
と答えてる塔矢。
口元は笑ってるけど目が笑ってない。
辛いんだろうな。
腹の中じゃ腹綿が煮え繰り返る思いなんだろう。
でもそんな様子…これっぽっちも見えない。
昨日あんなに泣いてた奴と同じに見えない。
「…大丈夫か?」
取材が終わって擦れ違う時、回りに聞こえない程度の小声で声をかけた。
「…大丈夫に見える?」
「見えないから聞いてる」
「………後でメールする」
「……」
その一時間後ぐらいに来たメールの内容は
『今夜キミの家に泊まってもいい?』
というものだった。
いいわけ……ない、けど……あんな塔矢放っておくこと出来ない。
『いいよ』
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