●LOCAL EVENT 6●





「8時になったけど、進藤もう起きとうかなぁ?」

「行ってみる?」

「いや、今日は先に電話するわ」



進藤の携帯を鳴らしてみた。

10コールくらいして

『はい…』

と眠そうな声の進藤が出た。


「おはようさん、もう準備出来とう?」

『……ごめん。えっと…30分くらい待ってくれる?』

「はぁ??」

『ごめん、急ぐから』

「はいはい、ごゆっくり!」

ブチッと電話を切ってやった。

奈央が首を傾げてくる。


「進藤君何て…?」

「30分待ってって」

「30分も?シャワーでも浴びるのかな…」

「いやいや、絶対アイツら朝からイチャイチャしようわ」

「えっ、30分てそういう意味…?」

奈央が頬を赤く染めてくる。

そんな彼女の肩に腕を回してみた。


「ほな奈央、俺らも30分で出来るか挑戦してみる?」

「えっ!」

「うそうそ。冗談やって」

「え……私は別に挑戦してみてもいいよ…?」


恥ずかしそうに小声でOKしてくる彼女に、一気に理性やどっか行ってしまった気がした。

気付いたらベッドに押し倒していて、準備万端だった服を脱いでしまった。




30分後。

ピンポーンとチャイムが鳴って、今度は俺らが10分延長したことは言うまでもない――











結局チェックアウト出来たのは時間ギリギリの10時。

そこから4人で松山市内の観光に向かった。

とりあえず定番の松山城に行ってから道後温泉に向かってみる。

でも温泉はやっぱり日帰りより宿泊やな。



「また奈央と泊まりで来ようかな」

「うん…僕もいつか精菜と来れたらいいな」


男二人で温泉に浸かりながらそんな話をしてみた。


「…あ、そういえば昨日の指導碁でな、一人若い姉ちゃん教えたんやけど」

「へぇ…」

「進藤に彼女はおるんかって聞かれたわ」

「ふーん…」

「まぁ誤魔化したけど。でもあれやな…相変わらずお前と緒方さんの関係って外部に漏れてないんやな。棋士の間では今や関西棋院にまで有名な話やけど」

「みたいだね…意外と皆、記者や一般の人に聞かれても知らない振りをしてくれてるみたい。皆親切だよな…」

「それたぶん親切というより、絶対皆、単に緒方先生が恐いだけやと思うわ」

「あ、なるほどね。確かにバラした奴をどこまでも追い掛けそうだよな先生って」


ははっと進藤が笑う。

俺もうっかり話してしまわんよう気を付けようと思った。

(緒方先生敵に回したらもう碁界にはおられんようになるわ…)




温泉から出てしばらく待ってると、奈央と緒方さんも出てきた。

この3日間でこの二人の仲もだいぶ縮まった気がする。

進藤は基本いつ写真を撮られてもいいように俺の横に来ることが多い。

ということは自然と奈央と緒方さんが並んで歩くことになる。


「温泉気持ちよかったですねー」

「ねー。今度は泊まりで来たいねー」

と普通に仲良く会話していた。


「愛媛は遠いけど、近場の温泉なら夏休みにでもすぐ行けそうですよね」

「あ、本当だね。箱根とか湯河原とか熱海とか?」

「一緒に行きますか?」

「行こ行こ〜♪」


その「一緒に」の中に、俺や進藤も入ってるんやろか…とものすごく気になった。

進藤も明らかに気にしていた。


「彩と京田さんも誘っても面白いかも」

「わ〜今度はトリプルデート?楽しそう♪」


あ、よかった。

デートってことは俺らも入ってるわ。



海の日も終わって、いよいよ今週末から夏休みがスタートする。

俺は受験生で夏期講習もあるからそんなにスケジュールに余裕は無いけど。

でも温泉に行く日は息抜きも兼ねて絶対に調整しようと思った。


一方進藤の方は名人リーグが大詰め。

今のところ7戦して6勝1敗。

来月予定されてる緒方先生との最終局に勝てば、単独トップで挑戦権を手に入れる。

おそらく手に入れる気満々なんやろな。

もちろんタイトルも。



「名人リーグ、頑張れよな」

「もちろん」

「俺も受験頑張るわ」

「うん、頑張って」

「でも温泉は行こな」

「そうだね。楽しみだよ」

「部屋、何部屋取る?」

「…そりゃあ、3部屋だろ」

「正直もんやな〜進藤君は」

「…いいだろ別に」


振り返ると緒方さんの顔は真っ赤やった。

もちろん奈央も頬を赤めてめちゃめちゃ可愛い。


とりあえず今週末は、この可愛い奈央ちゃんと今度は二人きりでデートしようかな。

そんでもって両親もちょうど旅行に行って不在やから、もちろん部屋にも呼ぼうと、しれっと考えてる俺がいた――










―END―










以上、地方イベントでWデート話でした〜。(デートシーンほぼ無いけどな)
視点リレー、彩視点から佐為視点の間が一気に5年も飛んじゃったので、その間の話でもこれからポツポツ書いていけたらなと思います。

まずは十段戦から2ヶ月半後、愛し合う場所に困ってる佐為と精菜の話です(笑)
まぁ実家暮らしの若いカップルの永遠の課題ですなw
今までは緒方先生の留守を狙って精菜の部屋で触りあってた訳ですが、タイトルを取って緒方先生よりハードスケジュールになってしまった佐為〜。
しかも有名人なので記者にも狙われます。ホテルなんて行けない行けない。

さぁどうしよう、てな時に舞い降りてきた地方イベントのお誘いでございました。
何で彩とペア碁なんだよ、どうせなら精菜と打ちたいよ、と思った佐為。
主催に引き受ける条件を偉そうに出します。
佐為が出てくれるなら集客はめちゃくちゃ見込めるので、どんな条件でも飲む主催です。
更に手伝いの棋士や部屋割りにも口を出したり。
全ては精菜とイチャイチャする為です!(笑)

でも佐為の計画の最大の誤算は大久保七段がいたことでした。
佐為に話が来た段階では、対戦相手はまだ未定だったのです。
大久保七段は女の子を取っ替え引っ替えする悪い奴ですが、実は関西棋院で若手ナンバー1です。
まだハタチなのに七段ということは、リーグ入りも一度果たしてるんでしょう。
顔もいいし、碁に対しての姿勢は真面目で強い(=収入もいい)ので、関西棋院の女流の皆さんはそれらに騙されて泣くハメになるのです(笑)
精菜は美人だし、体型もヤバい(既にEカップ)ので、イベントに参加すると必ずこういうナンパ野郎が近寄ってきて大変みたいです。
今回は同じ棋士が相手でしたが、それがお客さんだったら本当に対応に困りますよね。
だから地方イベントの仕事は特に避けてる彼女ですが、今回は佐為との時間の為に頑張りました。

ちなみにこのイベントから3ヶ月後のおまけ話もあります。
おまけ(精菜視点)
大久保七段にも実は本命がw


さて次は、佐為がアキラから奪取する名人戦の時の話でも書いてみようかと思います〜