●LOCAL EVENT 3●





「西条、ごめん。やっぱり今夜…精菜と部屋を変わって貰えないかな?」



勝手に部屋を変わるなんて駄目だって分かってる。

でも僕はもう限界だった。

さっきの懇親会で精菜に近付く男を見て、一瞬殺意が芽生えた。

そのくらい切羽詰まっていた。


「もちろんええよ。この部屋割り見た時からそんな気しとったし」

「ごめん…」


コンコンとドアノックしてきて、開けたドアの向こうの彼女が持っていたカギと交換する。


「ほなまた明日7時に来るわな」

「うん」


部屋のドアが全部閉まったかどうか分からないうちから――僕は彼女を抱き締めて、熱くて深い口付けをした――


「…んっ…ん、……んっ」


余裕がない。

僕も精菜も。

だから一言も会話もしないまま、もうベッドに体を横たわらせて、とにかく夢中で体を触り合って、着ていた服も全部脱がし合った。


十段戦が終わって初めて結ばれた4月の終わり。

もう7月だというのに、僕達はあれから一度も体を合わせていなかった。


今までは緒方先生夫妻の留守を狙って彼女の部屋を訪れていたけど、最近はタイミングがどうも合わない。

明らかに緒方先生より自分の方が対局数が多いからだ。

先生が手合いで僕が休みというパターンが存在しないのだ。

先生はイベントの手伝いで留守にすることも多いけど、それはほぼ土日だ。

土日は精菜のお母さんが在宅中。

自分の部屋で出来たら一番いいんだけど、常にお手伝いの楠さんがいるし、楠さんが休みの日は絶対に両親のどちらかがいる。

もちろん彩もいる。

しかも彩は定期的に京田さんちを訪れて愛し合ってるらしく、それがまた僕の癇に障った。

もうシティホテルでもラブホでも何でもいいからホテルで出来ないかとも思ったけど、タイトルを取ってからやけに後をつけられてる気がする。

行動を見張られてる気がするのだ。

ヘマをすれば容赦なく翌週の週刊誌に自分の名前が載るだろう。

それだけは絶対に避けたかった。


だから、ただでさえ彼女の全てを知ってしまって、ますます我慢が出来なくなってるのに、この状況は死ぬほど辛かった。

知らなかった方が良かったと後悔する程に――




「佐為…もういいよ、来て…」

「うん……」


お互い余りに余裕が無さすぎて、まだろくに慣らしてもないのに、早から彼女がせがんでくる。

もちろん僕に拒否する余裕なんかない。

本当はゴムを付けてる時間すら惜しいけど、さすがにそれはまずいので、一度体を離して準備する。

そして再び体を覆い被せた後、最初から容赦なく彼女の体を貫いた。


「――……んっ」


精菜が自分の口を自分の手で塞いだ。

もちろん喘ぎ声を隣の部屋に聞こえないようにする為だ。

このホテルはビジネスホテルではないけど、でも全く隣の音が聞こえないわけではない。

突く度に軋むベッド。

ものすごく気になるけど、今の僕にそんなものを気にしている余裕はない。

もう無我夢中で出し入れを続けた。

もちろんあっという間に襲ってくる射精感。


「は……精菜…」

「ん……いいよ、一回出しちゃって…」

「……ごめん」


呆気なく達して、僕は体の体重を彼女にかけた。

優しく後ろ髪を撫でてくれる。


「キツかったね…この2ヶ月半」

「精菜もキツかった…?」

「うん…すごく。佐為が全然部屋に来てくれなくて寂しかった…」

「行きたいのは山々だったんだけどね…」

「これからもずっとこんな感じなのかな…」

「そうでないことを祈るけど…。早く一人暮らしがしたいよ…」

「そしたらいつでも遊びに行けるね…」

「うん…」


高校を卒業したら僕は一人暮らしをすると決めている。

あと8ヶ月の我慢だ。

もちろん8ヶ月もの間禁欲は無理だから、意地でも何とかするけど。



「……さっき大久保さんに言い寄られてただろ」

「……気付いてた?」

「もちろん。スピーチしてたって挨拶してたって、ずっと僕は精菜を見てるからな」

「……どう思った?」

「……殺意が湧いたよ」

「ふふ」

「もし西条が止めに入らなかったら、スピーチしてたマイクを投げてたね」

「えー?届く?結構距離あったけど」

「意地でも届かせたよ」

「でもそしたら懇親会はきっと中止だね」

「構うもんか。精菜は絶対に誰にも渡さないからな」

「佐為……」


大好き…と彼女が抱き付いてくる。

もちろん僕も抱き締め返した。


「僕も大好きだよ…」

「私も…」


再びキスをして。

そして何度も何度もお互いが満足するまで一晩中僕らは体を合わせ続けた――










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