●LOCAL EVENT 2●





懇親会はホテルの宴会場で行われるビュッフェ形式の立食だった。

今回参加している棋士の他に、イベントを主催したテレビ局、銀行、新聞社のお偉いさん方やスタッフ、それに後援の県のスタッフもいてかなりの人数が集まっていた。

一番人気はもちろんタイトルホルダーの進藤君で、常に誰かに挨拶していた。

(もちろん写真も撮られまくりだ)

壇上でいきなり一言喋ることになっても、全員の視線を一身に浴びてるのに全然臆せずスラスラと御礼や今日の対局の感想を述べていた。

まだ17歳なのにスゴいなぁと感心する。


「緒方さん、進藤君すごいね」

と話しかけると、隣にいたはずの彼女がいない。

あれ?と辺りを見渡すと――向こうで誰かと話していた。

いや、話してると言うよりかは一方的に話しかけられてる。

緒方さんは少し困っているように見える。

誰と話してるんだろう、と少し近寄ってみると納得した。



(大久保七段だ……)



関西棋院で随一のイケメンの大久保七段。

でもその容姿の良さを武器に、プレイボーイでも有名なのだ。

ウワサによると女の人を取っ替え引っ替えして、何人もの女流が泣かされたことがあるとか。


(進藤君!緒方さんが大変だよ…!)


と、すぐにでも教えに行ってあげたかったけど、今進藤君は壇上でスピーチ中だ。

まさかこの時間を狙って大久保七段は緒方さんに近寄ったのだろうか。

でも進藤君も気付いてはいるみたいで、二人がいる方向を思いっきり睨んでいた。


どうしよう……

私が緒方さんを助けるしかないのかな。

果たして女タラシの男から女の私が助けられるだろうか……

でも悩んでる場合じゃない。

私が心を決めたその時――



「ちょっとすみません」

と二人の間に分け入ったのは、悠一君だった。


「緒方さん、向こうで新聞社の人が探してましたよ」

「え?あ…ありがとう。すみません、大久保さん。失礼します」


緒方さんが助かったと言わんばかりに彼から離れて急いで向こうに走っていった。

大久保七段が悠一君を睨む。


「邪魔せんで貰える?」

「大久保さんこそ友達の彼女誘惑せんといて貰えますか?」

「せっかく進藤君が絶対に助けに来れんタイミングを狙ったのに」

「甘いですよ。あれ以上緒方さん困らせてたら、スピーチ途中だろうがアイツ絶対飛んで来てましたよ」

「はは、怖い怖い」


大久保七段がひとまず諦めたようにどこかに行ってしまった。

じっと見ていた私の視線に悠一君が気付く。


「ホンマ大久保さんには困るわな」

「ウワサ通りだね…」

「奈央も気をつけなあかんよ。アイツ昔っから見境なしやけんな」

「うん…分かった」



スピーチを終えた進藤君は、また主催のお偉いさん方に永遠と挨拶させられていた。

きっとすぐにでも緒方さんの所に行きたいと思ってるだろうに、そうさせてはくれない現実。

有名なのも大変だな…と思った。











懇親会は結局2時間で終了した。

二次会以降は未成年は参加出来ないので、私も緒方さんも終了後すぐに部屋に戻った。


「先にお風呂入ってもいいですか?」

「あ、どうぞ〜」


緒方さんがお風呂に入ってる間、私はテレビを見ることにした。

東京とは全然違うチャンネルが少し面白い。

20分くらいで緒方さんが出てきたので、入れ違いで次は私が入る。

ユニットバスの狭いお風呂は洗いにくいから苦手だ。

床を濡らしてしまわないよう気を付けながら何とかお風呂から出ると――


「奈央、出たん?」

と悠一君がいて驚く。


「え?!何で…っ」

「緒方さんと部屋変わってもろた♪」

「ええ?!」

「いや、変わってあげた〜の方が正しいかな」

「……え?」

「進藤も緒方さんも実家暮らしで、あんまり二人きりの時間持てんみたいやからな。こんなに堂々と外泊出来るチャンスあんまりないしな」

「私達だって実家暮らしだけど…」

「そやね。でも俺らとは立場が違うやん?」


進藤君は有名人だ。

記者に後をつけられることも度々あるそうで、もちろんまだ17歳の彼が15歳の彼女と簡単にホテルなんて行けるはずもない。

今回のWデートだって、本当は二人きりでデートしたいのは山々なところを、敢えて4人にしてカモフラージュするのが目的らしいのだ。


「大変なんだね…」

「早く一人暮らししたいってボヤいてたわ」

「そりゃそうだよね…」

「まぁでも、お陰で今夜は奈央と二人きりやな」

「……」


顔がたちまち赤くなる。

おいでおいでと手招きされたので近付くと――ぎゅっと抱き締められた。


「悠一君…」

「奈央…」


体を持ち上げられて、ベッドに倒される。

悠一君が直ぐ様私の体に跨がってきた。


「横…たぶん関係者の部屋やから、あんまり声出さんようにな」

「うん…頑張る」


伸ばした手を彼の首の後ろに絡ませて、私達は唇を合わせ、営みをスタートさせた――









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