●LOCAL EVENT 1●
「Wデート…?」
「うん。今度松山のイベント4人とも呼ばれとうやん?3日目はもう帰るだけやし、最終便にして昼間は皆で観光でもせぇへん?」
「わぁ、楽しそう!私はもちろんいいよー♪」
来週松山である囲碁フェスティバルに、私も悠一君もお手伝いに呼ばれている。
同じイベントにゲストで呼ばれている進藤君と緒方さんと、自由時間にWデートをしようと悠一君が提案してきた。
もちろん私は悠一君と一緒なら何でもOKだ。
でも進藤君と緒方さんとかぁ…。
ちょっと緊張するなぁ…。
(私が一番年上なのにね)
毎年松山市で行われている囲碁フェスティバル。
私みたいな下っ端棋士は指導碁が主な仕事だ。
「先生よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
私は今日何人目かの指導碁のお客さん(60代くらいの女性)に頭を下げた。
近くで同じく悠一君も指導碁にあたってる姿が見える。
ちなみに進藤君と緒方さんは向こうの壇上にいる。
4月に十段のタイトルを獲得した進藤君と、ここ数年女流タイトルで何度も挑戦者になっている緒方さんを、囲碁を打つ者で知らない人はいない。
それでなくても二世棋士で入段前から既に有名な二人である。
そんな進藤君と緒方さんが壇上で行っている公開対局は、二人が一組で戦うペア碁だ。
対戦相手は関西棋院の大久保七段(20)と菅女流三段(18)。
関西棋院随一の美男美女棋士である。
てことで、4人ともめちゃくちゃ見た目がいい。
壇上は何だかキラキラしていた。
「…ありません」
2時間の激闘の末――勝利したのは進藤・緒方ペア。
さすが私生活でももう7年も恋人の二人だ。
お互いの考えなんて手に取るように分かるらしい。
「奈央、お疲れさん」
「あ、悠一君お疲れさま」
夕方――1日目のスケジュールは全て終了し、私達は今日泊まるホテルへと移動した。
もちろん一人部屋ではない。
もともと部屋割りは事前に知らされていて、私は緒方さんと一緒だ。
ちなみに悠一君は進藤君と同室だ。
「進藤、お待たせ。お疲れさん」
「お疲れ」
ホテルのロビーで待っていてくれた進藤君と緒方さん。
「はい、カギ」と先にチェックインしてくれていた進藤君から悠一君がルームキーを受け取った。
「金森さんもどうぞ」
「ありがとう」
私も緒方さんからルームキーを貰う。
そして4人で一緒にエレベーターに向かった。
「懇親会7時からやってな」
「みたいだね。あんまり時間ないな」
「着替える?服装自由やろ?」
「そうだね」
悠一君と進藤君が相談しながらエレベーターに乗り込む。
私はどうしようかな…。
一日ずっと指導碁しててちょっと汗もかいちゃったし、やっぱり着替えようかな。
「緒方さんは着替える?」
「はい」
「じゃあ私もそうしようかな」
ちなみに私達と悠一君達の部屋は目と鼻の先だった。
おそらくイベント関係者は皆この辺りなんだろう。
「ほな後でな〜」
と悠一君達と別れて、私達も自分達の部屋に荷物を置きに行った。
中はシンプルなよくあるタイプのツインの部屋だった。
緒方さんが直ぐ様着替え出したので、私も急いで着替えた。
ちなみに緒方さんはキレイめのワンピースに着替えていた。
158センチと平均くらいの身長しかない私と違って、おそらく167、8センチはある緒方さん。
顔も美人を絵に描いたような美人だし、女の私でもあまりの美しさに見とれてしまう。
「何ですか?」
ジーっと見ていたら、緒方さんに首を傾げられてしまった。
「あ、ううん。緒方さんキレイだなぁって…思って」
「え?」
「本当、進藤君とお似合いのカップルだよね」
「……ありがとう」
緒方さんの頬が少し赤くなった。
めちゃくちゃ可愛い!
「金森さんもそのアンサンブル、すごく似合ってますよ」
「え?そ、そうかな?ありがとう…」
「そろそろ行きますか?」
「あ、そうだね」
部屋を出ると、エレベーター前に悠一君と進藤君が既にいるのが見えた。
「お待たせ」
「ほな行こか。会場確か3階やったな」
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