●LITTLE BOY FRIEND 3●





●○●○● 練習  あかり ●○●○●



ヒカルと塔矢さんが初めて出会ったのは、私達が小学校6年生の時だった。

何故か急に囲碁に夢中になりだしたヒカル。

近所の囲碁教室で何かやらかしちゃって強制送還をくらったヒカルは、駅前にある碁会所でも囲碁が打てると聞いて、そこに足を踏み入れたんだった。

これからのヒカルの人生を大きく変える、運命の出会いがそこであるなんて知りもしないで――



「塔矢アキラって言うプロがいてさ、女だけどタイトルのリーグ戦とか出まくってるんだって。すげーよなぁ!」

「プロ…?その人何才なの?」

「んなの聞いてねーよ。お母さんが女性に歳を聞いちゃいけないって言ってたし。でも今度聞いてみようかなぁ」

「え?またその碁会所に行くの?」

「だってプロだぜぇ?もう佐為が喜んじまって………あ、いや、何でもない」

「……」



プロだとかそんなの関係ない。

ヒカルが女の人に会いに行くっていうのが、私は気に入らなかった。



「18歳だってさ」とヒカルが翌週教えてくれた。

一体どれだけその碁会所に通ってるんだろう。

ヒカルの口から囲碁の、そしてその女の人の話を聞かない日はなかった。

「塔矢さんが」「塔矢さんが」が、いつの間にか「アキラさんが」「アキラさんが」になった。

その人の影響か、ヒカルは院生になって、中学2年の時にはプロ試験にも合格。

高校も行かないらしい。

プロの道を真っすぐ進んで、「アキラさんをいつか公式戦で負かしてやるんだ」って得意げに話してくれた。

ヒカルの口ぶりから、彼女に特別な想いを抱いてることなんか、聞くまでもなかった。


それでも彼女は7歳も年上だから、常識で考えたらヒカルが相手にされることはない―――それだけが頼みの綱だった。

ヒカルなんか、告白してフラれちゃえばいい。

そしたら私が慰めてあげるのに。

私が付き合ってあげるのに。



でも……実際にフラれたのは私の方だった。



「アキラさんと付き合うことになったんだ。ごめんな…」



告白されていた今の彼氏に慰められたのは私の方だった。

彼と付き合ってもう二年。

どんどん音信不通になる。

でもそれは私のせい。

今でもずっとヒカルのことが忘れられない私のせい。

もうヒカルと塔矢さんの間に入り込むことは出来ないのかな?

本当にもう無理なのかな?


最後の賭けに出る為に、今日私は引っ越し祝いを持ってやってきた。

分かったのは、予想以上に塔矢さんは真面目で、ヒカルは馬鹿だということ。

運が良けば二人を別れさすことが出来るかもしれない。

これが私の最後の足掻きだよ、ヒカル―――








「……ぁ……」


胸に触れてきた手に、私は感じて声を漏らした。

彼氏に触られた時と全然違う。

本当に好きな人に触られると…こんなに嬉しくて幸せな気持ちになれるものなんだ…。

初めて知った気がした。

ヒカルが遠慮気味に揉んできた。

私の胸…塔矢さんより大きい?

はは、まだ知らないか。

ヒカルは塔矢さんとはまだキス止まりだもんね?

二年も付き合ってるくせに、馬鹿みたい。

塔矢さんも真面目だよね。

そんなに世間の目が恐いの?

そりゃそうか、タイトルホルダーだもんね。

王座は二連覇、女流タイトルは入段翌年に取ってからずっと。

彼女に敵う女の人はいない。

でもそれは悪魔で囲碁の話。

女としてはどう?

あなたの彼氏、今、私の上にいますけど?

胸、舐めてますけど?



「ん…気持ちい…」


そう漏らすと、ヒカルはますます熱心に舐めて奉仕してきた。

うう…気持ちいい。

ヒカル、好きだよ。

もっともっと触って。

体中――隅々まで。

ううん、早くひとつになりたい。

ヒカルとひとつになりたい。


「下も…触って?」

「あ……うん」


悪魔で遠慮気味に、下着の上から触れてきた。

濡れ過ぎてて引かれるかも?

でも、ヒカルだからだよ。

彼氏じゃこんなこと有り得ない。


「すっげぇ…ぬるぬる」

「やん…」


隙間から指を入れて直接触ってきたヒカルが、そう言って私の大事な部分を弄ってきた。

くちゅくちゅ恥ずかしい音が絶え間無く聞こえ出す。


「下着、脱がしてもいいよ?」

「…う…ん」


あれ?

ヒカルの顔、ちょっと強張ってる。

緊張してるのかな?

そりゃそうか、初めて生で女の子のアソコを見るんだもんね。

きっと塔矢さんなら自分からこんなに脚を広げないよね、っていうぐらいM字に広げて見せてあげた。


「…あかりさ、恥ずかしくねぇの?」

「…恥ずかしいよ。でもヒカルの勉強の為に頑張ってあげてるの」

「何で?どうしてオレにここまでサービスしてくれるわけ?」

「そんなの……言わなくても分かるでしょ?」


ううん、一度言ったよね。

好きだって。

付き合ってって。

フラれたからって、二年経ったからって、他の男と付き合ったからって、長年の気持ちはそう簡単には変わらない。



「…好き…ヒカル…」



私はヒカルに抱き着いた。

でもヒカルは抱きしめ返してくれない。

それどころか、私の肩を押して引き離してくる。


「……ごめん。そういうことなら、やっぱさっきの話は無しにしようぜ」

「嫌っ!お願いヒカル、一度でいいの。抱いて。私の体…好きにしてくれていいから」

「お前さ…女なんだからもっと自分の体大事にしろよ」

「女だから好きな人とひとつになりたいんじゃない!」

「悪いけど、やっぱ無理。触ってる途中も何度も思った。何でアキラさんじゃないんだろう、何やってんだろオレ…って。やっぱオレも好きな人を抱きたい。例え下手で幻滅されたって構わない。オレなりに頑張ってみるよ」

「……」


ほら、と着ていた服を渡された。

涙が出てくる。

賭けは私の負けだ。

やっぱり、ヒカルと塔矢さんの間には入れなかった。

私の初恋が本当に終わってしまった。


「…ぅ…」

「泣くなよ…。ごめんな、気持ちに答えてやれなくて。お前のことは好きだよ、幼なじみとして…」

「ヒカル…」


最後に、ヒカルは頬に優しくキスをしてくれた。

その優しいキスが心地よかった。

幼なじみに対する、恋愛感情が一切ないキス。

まるで外国の人が家族にするようなキス。

ありがとうヒカル。


そして、さようなら―――





ガタンッ



物音がして、私とヒカルは同時に首を振り向けた。

そこに立っていたのは顔面蒼白な塔矢アキラ。

そりゃ無理もないだろう。

私は裸だし、ヒカルも上半身何も着ていない。

いつからいたんだろう。

さっきのキスも見られちゃった?



「アキラさんっ!待って!違うんだ!」


当然即Uターンした彼女を、ヒカルはTシャツを慌てて着て追い掛けて行った。

ヒカルは一体何が違うと言うつもりなんだろう。

Hはしていないんだ!って?

私の胸を弄って、ちょっと下も触ってみただけだって?

もしかして再び私にチャンス到来?なーんてね♪



バイバイ、ヒカル。









NEXT