●LITTLE BOY FRIEND 1●
●○●○● 約束 アキラ ●○●○●
「オレ一人暮らし始めたんだ。アキラさん遊びに来てよ。そうだ、今度のオレの誕生日はオレん家で祝って?」
「え…?」
いつもの碁会所で、いつものように進藤と打っていた時、彼はサラリとそれを提案してきた。
微かに頬を赤めている彼。
あ…そうか、今度の20日で約束の18歳になるんだったな、ということを思い出す。
約束―――それを意識すると、僕の顔も急に熱を帯びてきた気がした。
「…分かった。お邪魔させてもらうよ」
「ホント?!」
一気にパアッと明るくなった彼は、へへへと顔を目一杯緩めて、ご機嫌にまた次の一手を打った。
***********
僕はこの進藤ヒカルと一応お付き合いというものをさせていただいている。
彼に告白されたのはもう二年も前、彼が16歳になる直前、僕が22歳の時だった。
そう―――僕らは7歳(正確には6歳と10ヶ月)も歳が離れているんだ。
だからもちろんその時まで、僕は彼を恋愛の対象として見ていなかった。
なのに――
「今日幼なじみのあかりって奴に告られたんだ。どうすればいいと思う?」
さっきみたいにサラリと彼が聞いてきたんだ。
「え…と、進藤はその子のことが好きなのか?好きなら付き合えばいいんじゃないか?」
「……それ、本気で言ってんの?」
「え…?」
碁盤越しに乗り出してきた彼に、あっという間に僕は唇を奪われた。
ここは人目のある碁会所だ。
もちろん一気に周りはざわめいて、北島さんなんかは「このマセガキが!」と進藤に怒っていた。
でも周りのことなんか全く気にせず、進藤は続ける。
「…これがオレの気持ち。オレが好きなのはアキラさんだよ」
「え…」
突然そんなことを言われて、僕の頭は当然パニック状態に陥ってしまった。
今までどんなに告白されても、こんな風にはならなかったのに。
冷静に即お断り出来たのに。
なのに今の僕はそれが出来なかった。
何故?
「オレじゃやっぱ駄目…?…だよな、7才も下だし。じゃあもしオレがアキラさんと同い年だったら、付き合ってくれてた?」
同い年?
進藤が?
進藤が僕と同じ22歳だったら――僕が進藤と同じ15歳だったら――
その様子を想像したら…僕は自然と頭を縦に振っていた。
「そ…うだね。それなら付き合ってもいいかもしれない…」
「ホント?!じゃ、オレとアキラさんの問題って年だけなんだ?アキラさんもオレのこと好きなんだ?」
「は?」
「だってさっき、好きなら付き合えばいいって自分で言ってたじゃん?付き合ってもいいかもしれないってことはさ、オレのこと好きってことだろ?じゃ、付き合おうよ!年なんてハタチ過ぎたら関係なくなるし、全然問題ないって!」
「…問題大有りだろう。ハタチ過ぎたら関係なくなるのなら、ハタチになってからもう一度出直してきてくれ」
「え、絶対やだ!オレがハタチになったらアキラさんはもう27歳じゃん。絶対他の奴に取られる!そりゃ…絶対アキラさんが待っててくれるってのなら考えなくもないけどさー、本当に待っててくれる?もし塔矢先生や後援会とかがいいお見合い話を持ち掛けてきても、ちゃーんと断ってくれる?」
「………」
そう言われて、僕は今自分がおかれている状況を改めて考えた。
22歳現在でもチラホラお見合い話はある。
面と向かっての告白はいくらでも断れるが、お見合いはそうはいかない場合も多い。
一度会うだけでも…と場を設けられてしまうのだ。
今までは本当に一度会うだけで終わりにして何とか切り抜けてきたが、そのうち絶対に断れないものも出てくるだろう。
それに父はともかく母は僕を早くお嫁に出したがっている。
アキラさんのウェディングドレス姿が早く見たいわ〜、私も孫を早く抱きたいわ〜、と今でも急かしてくるのだ。
あの母親には僕は敵わない。
となると、27歳まで大人しく待ってあげることは不可能に近いかもしれない。
「…すまない、キミの言う通りだ。たぶん…待ってあげれない」
「ほらみろ。だから今から付き合うのが一番イイんだって!大丈夫、愛さえあれば年の差なんて何とでもなるよ!」
「う…ん…」
そのまま進藤に乗せられるように、僕は彼と付き合うことになってしまった。
「愛を語るなんて10年早い!お前なんかに大事な若さんをやれるか!」と北島さんは進藤には文句をひたすら並べていたけど、僕には「ようやく春が来たな」と一応祝ってくれてるみたいだった。
少なからず未だに一度も交際経験のない僕を、碁会所の皆さんも心配してくれてたみたいなのだ。
ずっと碁ばかりの生活だったから。
そういえばさっきの口付けも…僕にとってはファースト・キスだ。
***********
あれから早二年。
進藤は17歳に、僕は24歳になった。
そしてもうすぐ彼は18歳になる。
『約束』の歳になる。
え?どんな約束かって?
もし僕と彼が同い年だったら、きっと全く気にもしなかったことだ。
確かに告白してきたのは彼の方だけど、付き合い始めた瞬間に僕らは同等の立場になる。
僕には負い目があった。
つまり7歳も年下の子と、恋人同士が必ず行き着くだろう接触を、本当にしてもいいのかどうかということだ。
気持ちを伝える為にわざわざキスをするような彼だ。
もちろんすぐに次のステップを求めてきた。
だけど僕は応じれない。
だって、一般的に22歳の女が15歳の男の子とああいう行為をすることは犯罪だから。
もしバレたら、訴えられたら、と思うと根が真面目な僕にはどうしても出来ないことだった。
「キミが18歳になるまでは…」
公に問題なくなる歳になるまでは―――それが『約束』だ。
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