●LITTLE GIRL FRIEND 8●
誕生日から数日後―――僕は少しお洒落をして約束の駅前にやってきた。
今日は進藤さんとの初デート。
同年代の子とのデートじゃ考えられないドライブデート。
約束の時間ピッタリに、僕の前に一台の車が停まった。
「お待たせ」
「おはようございます、進藤さん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。さ、乗って」
「はい」
助手席に乗り込んだ後、しっかりシートベルトを締めて―――さぁ出発。
「今日はちょっと遠くまで行くから」
「はい」
運転モードに入った進藤さんは格好よくて、胸がドキドキする。
名前までは分からないけど、進藤さんがいつも聞いてるバラード系の音楽が、今日は出発した途端に消されてしまった。
「アキラちゃんとの会話に集中したいからね」
だって。
嬉しいな。
「可愛い服だね。4、5歳は大人っぽく見えるよ」
「本当ですか?」
4、5歳ってことは…16、17歳ぐらいかな?
駄目だ…まだ足りない。
進藤さんは18歳にならないと付き合ってくれないって言ったから。
「…あ。そういえば受かりました、中学」
「中学受験したの?すっげー。どこ?」
「海王です。家から近いし」
「海王かぁ〜頭いいんだね」
「父の母校なんです」
「へー、名人の…」
春からやっと中学生。
でも、もうプロになるつもり。
もう少し強くなってからと思っていたけど、やっぱりプロになった方が上達が早いし。
それに……進藤さんがいるし。
せめて同じプロ棋士として対等になりたい――
「海王って確か制服可愛いよね。アキラちゃんに似合いそう」
「じゃあ…中学になったら制服のまま碁会所に寄りますね」
「はは、ありがとう。楽しみが一個増えた」
高速に入って飛ばすこと一時間。
東京を出て、神奈川に入って、もうすぐ静岡ってところで高速を降りた。
そして下道を走ること更に十数分。
到着したのは――広くて綺麗な海岸だった。
「海なんて久しぶり…」
「夏の方が泳げていいけど、冬だと誰もいないから…静かで結構好きなんだ」
「そうですね…少し寂しい気もしますけど」
「考え事するのにはちょうどいいんだよ。思い出の棋譜とか…マグ碁でよく打った」
「どんな棋譜なんですか?」
「オレに碁を教えてくれた人との…思い出の対局」
「……」
進藤さんが寂しそうに笑った。
「…いつか、並べてくれますか?」
「うん…いつかアキラちゃんには聞いてほしいな…。アイツとの思い出…」
「……女の人なんですか?」
余計な心配をしてることが進藤さんにバレて、プッと笑われてしまった。
「アキラちゃんって意外と独占欲強い?」
「し、進藤さんは強くないんですか?!」
「オレも強いよ。きっとアキラちゃんが逃げたくなるぐらい」
「僕は…逃げません。絶対…」
「…ふぅん」
進藤さんが僕の手を取って……砂浜に引っ張っていった。
海辺まで来ると、次は波打際に沿って…歩いたり。
手を繋いだままだから…温かさで胸がドキドキする。
「…せっかくだから、碁盤なしだけど打ってみようか」
「目隠し碁ですか?」
「出来る?」
「なめないで下さい」
「よし、じゃあ五の5」
「…十四の13」
「五の14…」
海岸を端から端まで、一体何往復したんだろう。
一局打ち終わるまで…ずっと手を繋いだまま僕らは一緒に歩いた――
NEXT