●LITTLE GIRL FRIEND 55●
……マジ…恐い……
「進藤君、なぜここに呼ばれたか…理由は分かるね?」
「…はい」
アキラちゃんと付き合い始めた去年の10月30日。
この部屋に入ったのは、あの日以来だった。
でも、今日のオレと先生の間に碁盤はなくて。
机も何もなくて。
ガチで向き合った先生はずっと腕組みをして…オレを睨んでいた。
恐ぇえ……
「…昨日、アキラがキミの部屋に泊まったらしい。間違いないかね?」
「はい…間違いありません」
「まさか何もなかったとは、言い訳するまい?」
「…はい、しません」
「アキラがいくつだか…キミはもちろん知ってるね?」
「…13歳です」
「そうだ。まだ13だ。進藤君は今年でいくつになるのかね?」
「この9月で…22になります」
「そうだな。もう十分自分のしたことに責任が取れる歳だ」
「……はい」
責任――それは何を意味するのだろう。
やっぱり罪を償えってことなのだろうか。
それとも……
「アキラはキミに本気らしい」
「僕もです。アキラさんのことを本気で愛してます」
「本当に本気ならば、待てたはずだ」
「……はい」
「私に何を言われても文句は言えまい」
「……はい」
「では単刀直入に言おう。アキラとは別れなさい」
「………」
そう来たか……
「嫌ですっ!!!」
突然後ろの襖が開いて、アキラちゃんが叫んだ。
「絶対に別れません!!」
「アキラ、入って来ないよう言ったはずだ」
「だって…、別れろだなんて…そんな…」
「これは私と進藤君の話だ。お前は部屋に戻っていなさい」
「だって……」
今にも泣き出しそうな顔でオレを見てくるアキラちゃん。
さっきと同じように、オレは余裕の笑顔を彼女に見せた。
「進藤さ…ん」
「アキラちゃん、大丈夫だから。心配しなくていいから。な?」
「………はい」
アキラちゃんを自室に帰した後、オレは先生の眼を見て尋ねる。
「先生、これは取引ですか?」
「ああ、そうだ。本来ならすぐにでも訴えてやるところだがな、相手が進藤君だったから私なりの妥協案だ。キミには囲碁を辞めてほしくない」
「…僕がアキラさんより碁を取ると?自分を守る為に、アキラさんと別れることを選ぶと思ってるんですか?」
「ああ。キミは別れる。アキラの為にな」
「……」
アキラちゃんの為…か。
…そうだな。
確かに今捕まってアキラちゃんの経歴や心に傷をつけるわけにはいかない。
報道には被害者の名前は出ないけど、この世界の人達にはもろバレだろうし。
「…いつまで、ですか?」
「本当は18…と言いたいところだが、16でいい。但し且つ、キミが私からタイトルを奪取することを条件としようか」
「一つでも?」
「ああ、最低一つだ」
ということは上限は無し…か。
「…分かりました。その条件を達成するまで、もう二度とアキラさんには触れません。でも、もし達成したその暁は…アキラさんを戴きに来ます」
「ああ。その時は私も覚悟を決めよう。逆に、もしアキラが二十歳になってもキミが負け続けるようなことがあれば、アキラには見合いをさせる」
「…脅しですか?」
「進藤君がいかにアキラのことを愛してるかは、早さで証明したまえ。口では何とでも言えるからな」
…面白い。
やってやろうじゃん。
期限を16歳からに緩めたこと、絶対に後悔させてやる―――
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