●LITTLE GIRL FRIEND 53●
「よう、進藤」
「永夏?何で…」
今日は手合いの日。
棋院に行くと、今一番会いたくない奴がロビーで待ち伏せしていた。
昨日のことを思い出すと、怒りがこみ上げてくる。
「そう恐い顔するな。俺のお蔭で昨日は彼女と出来たんだろう?」
「うるせーよ…お前には関係ないだろ。さっさと韓国に帰れ」
「…そういえば昨日、帰り際に塔矢先生と話した」
「……は?」
塔矢先生…?
何だ突然……
「娘さんに会いましたよ。綺麗なお嬢さんですね、と褒めておいた」
「…他に何を言った?」
永夏がくくっと笑ってくる。
「恋人もいるみたいですね。心配じゃないですか?色々と――とも言ったかな?」
「永夏…お前…」
「俺は真実を言ったまでだ。心配するな、お前の名前は出していない」
「………」
出してないって…そんなの関係ないし。
最悪だ。
こいつマジ最悪……
「じゃ、俺は帰る。次会うのはマスターズか?楽しみにしているからな」
はははと高々と笑って永夏は棋院を出て行った。
オレは茫然と立ちすくんで動けない。
じきに開始時間だってのに…もう頭の中は対局どころではなくなってしまった。
…最悪。
よりによって父親に言うなんて……くそっ。
そりゃ確かに言われて困るようなことをしたのはオレ自身だけど。
こうなることも予測出来たはずなのに…止めなかった。
もうどんなに足掻いたってもう後戻りは出来ないんだ。
オレは…アキラちゃんを抱いてしまったんだ。
まだ13歳の女の子を。
9つも下の…中学生を。
普通に考えたら強制猥褻…だよな?
13だからぎりぎり強姦罪にはならないはず。
でも確かこれって親告罪だっけ?
だとしたらアキラちゃんのお母さんは味方っぽかったから、全ては塔矢先生にかかってくることになる。
いや、条令的には結婚するつもりの真摯な交際なら確か…大丈夫なんだっけ?
いやいや、13歳相手に真摯も何もないだろう。
信じてもらえるはずがない。
誰がどうみても淫行だ。
訴えられたら100%捕まる。
そしたらもう…オレの棋士生命は終わりだ……
♪〜♪〜〜♪〜〜
頭を抱え込んでると、メールの着信音が鳴った。
しかもこの曲……今朝登録したばかりのアキラちゃんの曲。
慌ててメールを開いた。
『手合いが終わり次第、家に来て貰えますか?』
「………」
『分かった』
としか返せなかった。
もともと碁会所で会う約束をしていたオレらだ。
わざわざ場所を…しかも自宅に変更してきたってことは……そういう意味だろう。
塔矢先生がお呼びなんだろう。
とりあえず……負けた後で塔矢邸なんか行けない。
絶対に今日勝とう。
(相手、九段だった気がするけど…)
重い足を引きずって、オレは対局場へと急いだ。
これが棋士として最後の対局になったらどうしよう…と不穏な思いを抱きながら―――
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