●LITTLE GIRL FRIEND 52●




ただ好きな人と結ばれたかった。

身も心も一つになりたかった。

ただ…それだけだった――







「ただいま…」


玄関の鍵を開けて、そ〜っと僕は家に入っていった。

現在時刻、7時ちょうど。

両親は朝ご飯を食べている頃だろう。



「あら、アキラさん。帰ったの。お帰りなさい」

「ただいま…」

居間に行くと、母が普通に「朝ご飯は?」と聞いてきた。

ホッと安堵の溜め息が出る。


「うん…いただきます」

そそくさと、いつもの僕の席に座った。


チラッと横の父の表情を伺いみる。

すると、今まで黙々と食べていた父の箸が止まった。



「…アキラ、どういうつもりだね?」

「え…?」

「外泊するとは、一体どういうつもりなんだ?」

「……すみません」


何も言い訳が出来なかった。

お父さん…もしかして怒ってる…?


「あら、お友達の家に泊まるくらい別にいいじゃない。アキラさんももう中学生なんですし」


僕の朝食を配膳しながら、母が弁解に入ってくれる。



「…昨日、お前もプリンセスホテルに来てたらしいな」

「…はい。クラスの友達に誘われたので」

「泊まったのは、そのお友達の家かね?」

「……はい」

「………」


父が溜め息をついて、腕組み出した。

…どうしよう。

初めてお父さんに嘘をついてしまった。

罪悪感に胸が痛む……



「…高永夏」

「…え…?」

「昨日帰り際に韓国の高永夏君と話す時間が持ててね」

「………」


父の口から高永夏の名前が出て、一気に冷や汗が出てきた。

だって…昨日進藤さんと僕がそうなるように協力してくれたのは彼だったから。

全てを知っている高永夏。


まさか……お父さんに………



「お前に恋人がいると教えてくれた。本当なのかね?」

「……はい」

「…そうか」


父親が娘の交際にいい顔をしないのは普通のこと…らしいけど。

でもこのお父さんの表情…それだけじゃないような気がする。


もしかして…気付いてる……?


「いいじゃないですか、彼氏ぐらいいたって。今の子は普通みたいよ」

お母さんがまたフォローしてくれる。

「だが私は親に嘘をつくような娘に育てた覚えはない」


ビクッと、僕の肩が跳ねた。


「アキラ、もう一度だけ聞く。本当に昨夜はお友達の家に泊まったのかね?」

「………」



もう頭を横に振るしか出来なかった。


反応が恐くて…お父さんと目が合わせられない。

ずっと俯いたまま、次の言葉を待った。



「…お前はまだ13歳だ」

「…はい」

「一応社会に出てるとはいえ、まだ法で裁くことも出来ない子供だ」

「…はい」

「私の言いたいことは分かるね?恋をするなとは言わん。だが、男女の関係を持つのはまだ早過ぎる」

「………」


…分かってます。

嫌ってほど。

進藤さんに耳にタコが出来るほど言われたことだ。


でも…本当は分かってなかったのかもしれない。

深く考えていなかった。


ただ好きな人と結ばれたいという思いが強すぎて……





「連れて来なさい。今日中にだ」

「……え?」

「相手はいくつなのかね?歳によっては向こうの親御さんにも抗議に行く」

「え…っ」


そこまで…?

親に抗議って…そんな…


「もちろん、歳によっては相手の態度次第で訴えるつもりだ」

「や…やめて下さい。そんな…態度次第って…」

「もしアキラに軽い気持ちで手を出したのなら、許すわけにはいかない」

「そんなわけ…、そんなわけありません!進藤さんは本気で僕のことを――」

「…進藤君、なのかね?」

「あ……」


しまっ…た…


恐る恐る頷くと、お父さんの表情はますます険しくなっていった。



「でも…僕たちら本気で愛し合ってます。僕が18になったら結婚しようって…プロポーズもされてて…」

「いい歳した男が13の子にプロポーズかね?私には正気の沙汰とは思えないが」

「……っ」


確かに…そうなのかもしれないけど……


「あら、素敵じゃない」

「明子は黙っていなさい」

「あら、母親が娘の恋を応援して何が悪いの?あなたはアキラが13だからって深く考えすぎよ。もう少し信用してあげたら?」

「信用した結果が、親に嘘をついて男の部屋に外泊かね?」

「もし進藤さんを訴えるような真似をしたら、私はもう二度とあなたと口を聞きませんからね!」

「お前は楽観的過ぎる!」

「あなたが堅すぎるのよ!」



「もう…やめて下さい…二人とも…」




やっぱり僕が間違っていたんだ……


僕のせいで進藤さんに迷惑がかかるなんて嫌だ。

僕のせいで両親が喧嘩をするなんて嫌だ。



僕の取る道は―――










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