●LITTLE GIRL FRIEND 46●





「―…んっ、ん…ん…―」


今日の進藤さんのキスは、最初から激しかった。

鼻で息をする余裕もないぐらい口内を貪られ続ける。

ギュッと締め付けられた手首が痛い。

進藤さん…怒ってるのかな?

でも、怒らせて我を忘れさせるぐらいじゃないと、彼は絶対に僕を抱こうとしないから。

そりゃあ…僕だって、甘いムードの中で自然にそうなるのが…もちろん理想だけど。

でも、そんなの18になるまで有り得ないし。

18まで待つのも有り得ないし。

さっき進藤さんが言った通り…一回でいいんだ。


一度でいいから彼と…体の上でも繋がりたい―――







「……場所、変えるか」

「え…?」

「永夏の部屋でするのってなんか嫌だ。出ようぜ」

「…分かりました」


そう言われると仕方がない。

僕は服を着ることにした。

その様子を無言でジッと見つめてくる進藤さん。

虚ろな目をしている。

物欲しそうな目…と言った方がいいかな?

男の目?

いつもの僕を何者からも守ってくれそうな優しいお兄さんの目じゃなくて、僕を一人の女として見て品定めしている熱を持った目だ。

やっぱりまだ子供の僕には…少し怖い。

逃げたくなる。

でも、逃げない。

今日こそは…絶対大人になるんだから――







カチャ


部屋を出た僕らは、ホテルの地下の駐車場までエレベーターで一気に降りた。

進藤さんの車に乗って、いざ出発。

行き先は……


「…あの、どこに行くんですか?」

「オレの部屋。でもその前にちょっと寄り道するな」

「…どこに?」

「どこだと思う?」



走ること10分。

進藤さんが車を停めた場所は――薬局だった。


「アキラは乗ってて。すぐ戻ってくる」

「あ…はい」


一体何を買うんだろう?と首を傾げる間もなく、本当にすぐ帰ってきた。

進藤さんが紙袋をポイッと後部座席に放る。


「なに買ったんですか?」

「内緒」

「…ケチ」

「…アキラを14才の母にするわけにはいかないからな」

「?何ですか?それ…」

「昔そういうドラマがあったんだよ。そういえばあの主人公って確かアキラと同い年の設定だったもんな…」


もう意外と子供じゃないのかもしれないな…とか、一人で納得している進藤さん。

よく分からないけど、とりあえず

「僕はもう子供じゃありません!」

と念を押しておいた。

「子供の方が楽なのに」

と笑われる。


「楽かもしれないですけど、大人の方が楽しいです!…自由だし」

「ま、そうかもな。で?自由と言えば、今日は外泊はOK?それともNG?」

「今日は……ダメです。父は棋王戦の後だし何だかんだで遅くなるとは思うけど…」

「また今度にするか?」

「い…嫌です!絶対!」

「でもアキラのお母さん、家で夕飯作って待ってるかもよ?あんまり遅くなったら怒られるぜ?」

「じゃあ、遅くなるって電話しておきます!それか…いっそのこと、友達の家に泊めてもらう…って」

「友達って誰?」

「それは……」


考えてみると、僕には泊まるほど仲のいい同性の友達なんていなかった。

市河さん…くらい?

でも市河さんは仲のいいお姉さんって感じだから、友達とは少し違う気がする。

そもそも芦原さんと同棲してるから、泊まるなんて絶対無理だし…。



―――ふと、一瞬あの子の顔が浮かんだ。


同じクラスの倉田さん。

昨日一応お母さんとも顔を合わせてることだし、彼女なら頼めばもしかしたら何とかなるかも…?

恐る恐る僕は携帯を取り出した。



プルルルル
プルルルル…


『もしもーし?塔矢さん?』

「あ…倉田さん?」

『うん。さっき高永夏だけ会場に帰ってきたけど、塔矢さん一緒じゃなかったの?進藤先生には会った?』

「あ…うん。その、今から進藤さんと打つんだけど…」

『あ、そうなんだ?』

「実は…倉田さんにお願いがあって…」

『なに?』

「その……」


恥を忍んで、倉田さんに外泊のアリバイ作りをお願いしてみた。

もちろん『ええーーっ?!!』と驚かれる。


『うっそ、ホントに?!進藤先生と?!塔矢さんやっるー!』

「あの、内緒にしてね…?歳が歳だし…」

『あ、そっか。進藤先生って今22?だっけ?うわぁ…』

「お願いしてもいいかな…?」

『それは任しといて♪たぶん全然大丈夫よ、私しょっちゅう友達泊めてるから』

「そうなんだ…よかった」

『今度会った時、馴れ初めとか詳しく教えてね♪』

「う…ん」

『じゃ、進藤先生によろしくねー!』


倉田さんの電話を切った後、次はお母さんにもかけてみた。

倉田さんの家で泊まる云々を説明してみる。


『あら、じゃあお夕飯もいらないのかしら?』

「うん…ごめん」

『分かったわ。じゃあ、進藤さんによろしくね』

「うん…?」




え??!




「おおおお母さん!何…で…っ」

『ほほほ、私を出し抜こうなんて20年早いわよアキラさん』

「う…」

『大丈夫、私はあなたの味方よ。愛があれば歳の差なんて関係ないわよね♪』

「…すみません」

『ふふ。じゃあ、進藤さんと仲良くね』

「…はい」



これで準備万端…?











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