●LITTLE GIRL FRIEND 44●





「ここで打とう」

「え…?」


カチャっとルームキーを差し込んで高永夏が僕を招いた部屋は、本当に普通の客室だった。

高永夏の泊ってる部屋なのかな?

「どうぞ?」と入るよう促されたけど、僕の足が動くはずはなかった。

だってこれってどう考えてもおかしいし……


「…あの、どうしてもここで?」

「ここなら誰にも邪魔されずに思う存分三人で打てるからな」

「三人?」

「ああ。指導碁が終わり次第進藤もここに来る」



え…?



「進藤さんが…?」

「ああ。昨日も来ていた。君のことも昨日進藤から聞いたよ」

「…だからさっき僕のことを‘アキラちゃん’と呼んだんですね」

「はは、進藤のが移ってしまったみたいだな。すまない、不快だったのなら今から君のことは塔矢さんと呼ぼう」

「そうして貰えると助かります」

「‘アキラちゃん’は恋人である進藤だけの呼び方ってことかな?はは」

「……」



進藤さんの話が出て気を緩めてしまったのか、僕は高永夏の部屋に足を踏み入れてしまった。

ツインの部屋だった。

サイドデスクの上に携帯用の碁盤が広げてあって、終局した石が並べられたまま。

これ…黒は進藤さんだ。

僕が一番大好きな碁。

どうやら昨日進藤さんが来ていたって言うのは本当らしい。



「進藤と付き合ってるんだってな?」

「…まぁ、…はい。まだ周りには内緒ですけど…」

「年下なんだって?失礼だが今何歳だ?」

「…13です」

「はは、なるほど。それでアイツは困っていたわけだ」


え……?


「君から求められると困ると言っていた」

「……だって」


他人から言われるとなんだか恥ずかしくて、顔の温度が急激に上がっていった気がした。


「でも俺は早熟なのは悪いことじゃないと思う。いい歳して無知よりよっぽどいい」

「でも…進藤さんは僕が18になるまで待つそうです」

「18?日本の女性は16で結婚出来るのに何故18なんだ?」

「知りません」


どうせあと2年半じゃ、まだ僕との結婚を許して貰えるぐらいの実績は作れてないから…とかが理由だろう。

お父さんは進藤さんなら許してくれると思うのに……


「でも君は18まで待つつもりはないんだろう?」

「当たり前です!」

「はは、いい意気込みだ。じゃあ君の願いが早く叶うよう手伝ってやろうか?」




……え……?





















一体どうすれば進藤さんは僕と一つになってくれるのだろう。

そんなことばかり考えてる僕って変なのかな?

でも、好きなら結ばれたいと思うのは普通だと思う。


だいたい中学生同士のカップルが結ばれるのは何の問題もないのに、中学生と18歳以上の人が結ばれるのは犯罪だなんて……おかしくないか?

絶対おかしい!

日本の法律って変だ!


そうブツブツ言いながら僕は高永夏の部屋のバスルームで着替えていた。

初めて着たバスローブは意外と重くて、非日常。

髪を少し濡らすとお風呂あがりみたいでちょっといやらしい。




「準備出来た?」

「あ、はい…」


バスルームから出ると、高永夏もスーツの上着を脱いで、ネクタイも外していて、更にシャツのボタンも2、3個外されていた。

これからする『演技』の為に、二人とも準備万端。


「さっき俺の携帯に進藤から着信があった。次は君の携帯かな?」

「あ…僕の番号、まだ進藤さんに教えてないんです。昨日買ったばかりだから…」

「誰にも教えてないのか?」

「あ、いえ。友達とか緒方さんとかには…」

「ふーん。ならかかってくるな。ほら来た」

「え?嘘…」


♪〜〜〜♪〜♪〜♪〜〜


確かに僕の携帯が鳴り出した。

未登録の番号。

本当に進藤さんなのかな?

ドキドキしながら出ると――



『アキラちゃん?進藤だけど』

「進藤さん?どう…して…」

『ごめん、番号倉田さんに聞いた。それより今永夏といるのか?どこで打ってるんだよ?』

「え?どこって…、…ぁっ」


いきなり高永夏に後ろから抱きしめられた――


「ゃっ…、ちょっ…」


うなじにキスされて、慌てて離れようとしたら――強引に今度はベッドに倒される――


『アキラちゃん?!アキラ?!大丈夫か?!』


僕が握ったままの携帯からは、進藤さんの必死の声が聞こえていた。

高永夏が僕の手から素早く携帯を奪う。


「進藤か?早く来ないとお前の大事な彼女のバージンは俺がいただくからな」

『はあ??!アキラに手―――』


進藤さんが言い終わらないうちに、高永夏がピッと通話を切った。



「これで完璧。じゃあ俺は進藤が来る前に会場に戻るとするかな」

「……」

「どうした?不満そうな顔して」

「…キスするなんて聞いてませんでした」

「お陰でずいぶんと可愛い声が出たな。進藤も真っ青だろう」

「…だからって」

「アイツを怒らすといつも面白い。これで次の世界棋戦は確実に予選を突破してくるだろう。俺を倒す為にな」

「え…?」

「じゃ、後は頑張れよ。この部屋は明日の朝まで譲ってやる」



高永夏って…いい人なのか悪い人なのか分からない……











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