●LITTLE GIRL FRIEND 41●
「久しぶりだな、進藤」
「永夏……」
研究会翌日――予定通り永夏含む韓国のトップ棋士13名が世界棋王戦の為に来日した。
日本からは塔矢先生や緒方先生、座間先生、芹澤先生、倉田さんなど7名が参戦して、明日一回戦が行われる。
とっくの前に予選で敗れたオレはもちろん参加しないから、永夏の方からオレを呼び出してきた。
コイツの泊まってるホテルの部屋に……
「秀英は来てないんだ?」
「ああ。アイツも最終の予選で敗れたからな」
「…ふーん。にしても永夏…日本語上手くなったな」
「秀英の影響かもな」
「へぇ…」
「最近はちょっとは頑張ってるみたいだな、進藤。一時は碁を辞めるんじゃないかと思ったが」
「……」
永夏は現在王位と棋聖と十段の三冠だ。
そりゃ…そんなお前に比べたら『ちょっとは』な頑張りに見えるのかもしれない。
でも、オレだってオレなりに必死だ。
残留出来なかった本因坊リーグだって、また今年も最終予選まで来たし。
十段だって天元だって王座だって、本戦で順調に勝ち進んでる。
これからだ。
「見てろよ。いつか絶対お前を倒してやるから」
「ああ、楽しみにしている」
くくっと笑った永夏が、持ってきた携帯用の碁盤をベッドに広げた。
反対側にオレも座って、打ち始める。
こんなプライベートな対局は、永夏が来日する度に何度も打ったことがある。
でも…公式戦はあの北斗杯以来一度もない。
これがオレが囲碁を食いつなぎの為に適当に打ってた時の代償だ……
「それにしても今回の大会…日本は代わり映えのない面子だな。日本はロクに若手が育ってないのか?」
「そんなこともねぇよ。今年入段した奴の中にも…すげぇのが一人いるし」
「ほう…なら今度連れて来い」
「馬鹿言うな」
「はは」
永夏は女っタラシでも有名。
下手にアキラちゃんになんか会わせたら…どうなることか。
ま、永夏は年上好きだって聞くし、そもそもオレより年上の永夏が13歳のアキラちゃんを相手にするなんて考えられないけどな。
でも、一応用心。
「明日は見に来るのか?」
「いや…明日は他の仕事が入ってるからちょっと無理かも」
「そうか」
明日は棋院で指導碁。
アキラちゃんも手合いなはず。
会えたらいいな…。
「取りあえず乾杯」
「いいのか?明日大事な一局なのに…」
「ビールの一本や二本で俺が酔うわけないだろう」
「…ならいいけど」
一局打ち終わった後は、何故かホテ飲みがスタートするハメに。
永夏と違ってオレはあんまり強くないから、すぐに酔っ払う。
ま、オレは明日は昼から仕事だから構わないけど…。
「進藤は結婚はまだしないのか?」
「あ〜〜ないない。あと5年はない。オレの彼女年下だもん」
「年下?ふーん…」
「永夏は?前に何とか言う向こうの女優と噂になってたじゃん」
「いつの話だ。とっくの前に別れた」
「へー」
「結婚結婚煩かったからな。年下の彼女ならそんな話にはならないからいいな」
「えー?でもある意味大変だぜ?したいしたい煩いし」
「ハハ」
オレは酔っ払うと饒舌になるのが問題だ。
何でもかんでも話しちまう。
「棋士なのか?彼女」
「うん…」
「昔付き合ってた唯とかいう女も棋士じゃなかったか?」
「あー…そうだったかも」
「同じ生業の女を彼女にするなんて俺には考えられないな」
「えー?でもデートでも打てるから便利だぜ?」
「デートでまで打ってどうする」
「はは…そうかもな。でもアキラちゃんと打つのは特別なんだ。すっげー楽しいし」
「ふーん…『アキラちゃん』ね」
永夏の前でうっかり彼女の名前を出したことを、後で後悔することになるなんて…この時は思いもしなかった――
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