●LITTLE GIRL FRIEND 40●





「塔矢さん、おはよう」

「あ…おはよう。倉田さん」


昨日の今日で、学校に行くと倉田さんが僕に近づいてきた。

本当に同じクラスだったんだな…。

しかも、手には何故か週刊碁?

裏表紙が僕の若獅子戦優勝の記事で…ちょっと恥ずかしい。



「明日来日なんでしょう?高永夏。楽しみね」

「え?高永夏って韓国の…?あ…そうか、今年の世界棋王の一回戦は日本であるんだっけ」

「プリンスホテルで明後日からですって。塔矢さん見に行くの?」

「明後日は手合いだから…」

「あ、そっかー。でも進藤先生は見に行くんでしょうね」



え……?



「どうして…そう思うの?」

「だって、高永夏と進藤先生ってライバルでしょう?というか宿敵?厚おじさんがそう言ってたもの」

「厚おじさん?」

「倉田厚九段よ。私の叔父なの」

「え?!倉田さん、倉田先生の姪なの?!」

「うん」

「……」


どうりで……この子が院生並に強かったわけだ……


倉田九段と言えばリーグの常連。

何度も挑戦権を得てる、もういつタイトルを取ってもおかしくない棋士の一人だし。

驚いた…世間って狭いな…。


倉田さんが持っていた週刊碁をパラパラめくり始めた。


「塔矢さんの今週の手合いは〜〜計盛二段?塔矢さんなら午前中で勝負付けれるんじゃない?」

「さぁ…どうかな」

「ね、一緒にプリンスに見に行きましょうよ。14時ぐらいに京急の品川駅前に待ち合わせでどう?」

「え?でも…14時だと倉田さんも学校終わってないんじゃ…」

「6時間目は古典の篠山だから仮病使えば余裕よ。決まりね。塔矢さんも速攻で手合い終わらせて来てね」

「は…はは。うん…頑張るよ…一応」

「遅れそうだったら携帯に連絡して」

「あ…僕、携帯まだ持ってなくて…」

「うっそ、社会人なのに?!すぐにでも持った方がいいって!」

「そうかな…やっぱり?」

「じゃあこれも今日の放課後早速一緒に行きましょう!親の同意書さえあれば一時間もかからないから」

「へぇ…そうなんだ……」



結局、倉田さんに引っ張られるままに放課後、携帯のお店に行ってしまった。

同意書にサインをもらいに一度家に帰ると、同級生の子なんか今まで一度も連れて来たことがなかったから…何故か母は大喜びで。

別に実は友達ってわけではないんだけど…。

でも、倉田さんって思ったよりサバサバしてて行動力あって、意外と付き合い易いかもしれない。

しかも囲碁も打てるから碁の話で盛り上がれるし。

同い年でこういう子…初めてだからちょっと嬉しい。



「よし、塔矢さんのアドレス登録完了♪いつでもメールしてね」

「うん…」


初めての携帯もちょっと嬉しかった。

明後日、もし進藤さんに会ったら、進藤さんのアドレスも教えて貰おうかな…。

…いや、僕のことを彼女扱いしてくれない彼氏になんか…教える必要ないか。

というか、教えてやるもんか!


代わりに囲碁サロンにその後立ち寄った僕は、ご機嫌に市河さんや居合わせた芦原さんとアドレスを交換しあった。

後から碁会所に顔を見せに来た緒方さんとも。


「アキラ君、メールアドレスは電話番号のままはやめた方がいいぞ」

「え?そうですか?じゃあ変えます…」


何がいいかな…。

ちなみに市河さんは記念日を一部に使ってるらしい…。

僕の記念日と言えば誕生日の1214…?

進藤さんとの初デートの1220でもいいかもしれない。

それとも付き合い始めた1030?

もしくは進藤さんの誕生日の920。

どれも捨て難かった僕は、新しいアドレスを記念日で連ねることにしてみた。


1214.1220.1030.920@……


「IPアドレスみたいだな」

と緒方さんに笑われる。


放っといて下さい!












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