●LITTLE GIRL FRIEND 4●
「こんにちは、市河さん」
「あらいらっしゃい、アキラ君。そちらは…」
「進藤プロだよ。ここで打つならいいって緒方さんが許してくれたから、連れて来ちゃった」
「あら、プロなのねー」
若い子は大歓迎という市河さんの受付をそのまま素通りして、奥のいつもの席へと向かった。
「僕、ここでいつも打ってるんです」
「へー。にしても感じのいい碁会所だね。さすが名人経営」
「ありがとうございます」
子供の頃から毎日来てるこの碁会所。
これからもずっと通うつもり。
進藤プロもそうなってくれたらいいのに…なんて。
「今日は互い戦でしてみる?」
「はいっ」
再び叶った進藤プロとの対局。
集中出来ないくらいドキドキが止まらない。
嬉しい。
楽しい。
このまま時が止まってしまえばいいのに―――
「んー…ここを抑えるには上からこう…ハネた方がよくない?」
「逆でしたね。そっちの方が左辺も上手く繋がる」
「そうそう。でもこの石の働きはいいね」
この前は出来なかった対局の検討も今日は充分に出来た。
時間を忘れるぐらいに白熱して―――あっというまの18時だ。
「…時間だね。送っていくよ」
「………」
…嫌だな。
まだ帰りたくない。
打っていたい。
「…アキラちゃん?」
「あと一局だけ…」
進藤プロがふーっと溜め息をついた。
「オレも打ちたいけど、今日は緒方先生と約束したからね。門限破るともう打てなくなるかもよ?」
「はい…」
…やだな。
まるで我が儘っこだ。
子供だ。
時間を気にせず、誰の許可がなくても思う存分に打てるようになるのは一体いつなんだろう。
プロになったら?
ハタチを過ぎたら?
「アキラちゃんの家どの辺り?」
「中野の…」
「じゃあ送っていくね」
「…はい」
しぶしぶ進藤プロの車に乗り、僕の家に向かって走り出した。
「次はいつ打てますか?」
「んー…明日から遠征なんだよなぁ…。週末には帰ってくるけど、イベントの仕事が2本入ってるから……早くて再来週かな」
「再来週…」
……遠い……
「…いや、待てよ。再来週は確かアイツの誕生日だったような…」
アイツ…?
「アイツって誰ですか…?」
「はは…オレの彼女。最近ほったらかしだったから、誕生日ぐらいは一緒にいないとやっぱマズいよな…」
「彼女……」
彼氏彼女の彼女?
そっか…そうだよね。
進藤プロって大人だもん。
彼女くらいいるよね。
別にだからどうってことはないんだけど……
チクリ
微妙に痛むこの胸の痛みは何だろう。
このショック感と喪失感は何だろう。
もしかして僕…―――
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