●LITTLE GIRL FRIEND 36●
「若獅子戦優勝おめでとう、アキラちゃん」
「ありがとうございます」
6月――プロになって3ヶ月近くが経った。
ようやくプロの対局の雰囲気にも慣れてきた気がする。
今までの手合いは全勝。
先週まで行われていた若獅子戦も優勝した。
このまま今の調子を維持して、一日でも早くお父さんや進藤さんに近付きたいと思う。
…が、プロ棋士の仕事は何も対局だけではない。
今日のような体験イベントの手伝いも、囲碁普及の為の大切な仕事だ。
「小中学生が対象のイベントだから、アキラちゃんとそんなに歳が変わらないお客さんが多いな」
「そうですね…。碁会所のお客さん達にする指導碁とはまた違って、面白そうですね」
「そうだな。でも若い子が囲碁に興味を持ってくれてるのって嬉しいよな。碁をもっと好きになって貰えるよう今日は頑張ろうぜ」
「はい」
進藤さんは慣れた感じで、小学生のお客さん四、五人を相手に早速指導碁を開始した。
「塔矢先生もこちらをお願いします」
「あ、はい」
僕もイベントスタッフに誘導されるがままに、次々に指導碁をし始める。
「私、囲碁初めてなんです」
という本当に初心者な小学生もいれば、結構強い女子中学生グループもいた。
にしても……本当に強いな。
特にこの真ん中の子…。
下手したら院生レベルな気がする…。
いや、もっと上…?
「塔矢先生。私達、海王の囲碁部なんですよ」
一局打ち終わった後、その真ん中の子が話しかけてきた。
「そうだったんですか。何年生ですか?」
「2年。私はB組」
「え…?」
2−B…って僕と同じ……
プッとその子が吹き出した。
「やだ、塔矢さん。本気で気付いてないの?私よ、倉田葵」
「え…倉田…さん?あ…ごめん、私服だと印象違うから気付かなかった…」
「塔矢さんもスーツだといつもと全然違うね。大人っぽい」
「……」
咄嗟に嘘をついた。
本当は倉田さんなんて知らない。
今のクラスになってもう3ヶ月も経つのに…クラスメートを全員覚えてないなんて…僕って最低だ。
恥ずかしい……
「私ね、今の3年生が引退したら女子囲碁部の部長になるんだ」
「そうなんだ。でも…その力は十分にあると思うよ。院生でも十分通用するんじゃないかな」
「ありがとう。塔矢さんにそう言われたら何だか自信が出てきた」
「……」
「さ、次はどのプロに打って貰おうかな〜」
「葵、あの人は?カッコイイ♪」
倉田さんの横にいた子が指刺したプロは―――進藤さんだった…
「進藤六段?そうね…いいかも♪」
倉田さんが進藤さんに直接指導碁をお願いしに行った。
もちろんサービス精神旺盛で快く引き受ける進藤さん。
二人でこっちに帰ってきた。
「あれ?アキラちゃん?」
「アキラちゃん…って、進藤先生、塔矢さんと仲いいんですか?私達、塔矢さんと同じ海王の2年生なんです。私はクラスも同じで…」
「へー、そうなんだ。アキラちゃんって学校だとどんな感じ?」
「優等生ですよ〜」
「やっぱり」
碁を打たずに雑談し始めてしまった。
進藤さんと仲良く話す彼女達を見てると…何だか面白くない。
やだな…このムカムカする感じ…。
斎藤さんの時と同じだ………
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