●LITTLE GIRL FRIEND 35●
3月――アキラちゃんがついに入段した。
先立って行われた座間先生との新初段シリーズは、アキラちゃんの実力を晴れて世間に知らしめることになった。
「おめでとう、アキラちゃん」
授賞式当日。
挨拶で忙しそうな彼女に、オレもちょっとだけ話しかけてみる。
「進藤さん!」
「ようこそ、プロへ」
「よろしくお願いします」
にこっと笑われてドキドキしてたら、突然後ろから誰かに羽交い締めにされる。
「進藤!俺らにも紹介しろ!」
「く、苦しい和谷…!分かったから…!」
しぶしぶアキラちゃんに一人ずつ紹介していった。
和谷に伊角さんに本田さんに越智に奈瀬に……エンドレス。
「塔矢アキラです。よろしくお願いします」
コイツらにまで振り撒かなくてもいい愛想を笑顔付きで振り撒いたもんだから、男連中は皆アキラちゃんの虜になってしまった。
ふん、でもアキラちゃんはオレのだもんね!
先手必勝♪
「塔矢さん、新初段シリーズ見たよ。もうその辺の女流とは桁違いだったね」
余計なことを口走った和谷に、奈瀬がムッと睨む。
「どうせ私はその辺の女流ですよーだ」
「タイトルには程遠いもんな〜お前」
「うるさいわね」
「せっかく斎藤さんが引退するのに塔矢さんが入って来たら意味ないよな〜。まぁ塔矢さんがいなくても意味ないと思うけど」
その言葉に、オレとアキラちゃんの顔から笑顔が消える。
斎藤さんはまるでアキラちゃんと入れ違いのように…来月引退する。
チラッと入口前で他の棋士と話してる彼女に視線を移した。
もう八ヶ月に入るアイツの腹はかなり目立つ。
でもまだ入籍はしてない。
本当に他に男なんているのか?…って心配になる。
「残念です。斎藤さんと…タイトル戦で戦いたかったのに」
アキラちゃんがぼそっと呟いた。
その目は恐しいくらいに睨んでいた。
自分の手で斎藤さんを潰したかった…ってことか。
女って恐い……
「あら、進藤君。久しぶりね」
斎藤さんがオレらの視線に気付いたのか、こっちにやってきた。
「塔矢さん、入段おめでとう」
「…ありがとうございます」
「残念だわぁ…あなたと戦えなくて」
「…出産頑張って下さい」
「あら、ありがとう」
二人の間で見えない火花が散ってて…超恐ぇ……
「えっと、予定日5月なんだって?」
「ええ。男の子ですって」
「へぇ…」
「産まれたら写真写メしましょうか?」
「いや…別にいらない」
「じゃあ結果は?」
オレの子供か…そうでないかの…結果。
ものすごく恐い……
「じゃあ……頼む」
「分かったわ」
くすくす斎藤さんが笑う。
「じゃあね」
「ああ…」
斎藤さんが行ってしまった後、
「結果って何ですか?」
とやっぱりアキラちゃんが聞いてきた。
結果……自信あるけど、やっぱ恐い…。
もしオレの子だったらアキラちゃんに何て言われるか……
ドキドキしながら待ったその結果。
5月下旬に斎藤さんからついに送られてきた。
『残念。ヒカルの子じゃなかったみたい。
でも、本当の父親だった人と来月入籍予定でーす★』
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