●LITTLE GIRL FRIEND 34●
斎藤さんの赤ちゃんが、進藤さんの子じゃないかもしれない…?
思ってもなかった展開に、僕の頬はすぐに緩んでしまった。
しかも、進藤さんが正式に僕と付き合ってくれるって!
じゃあ今から僕が進藤さんの彼女?
嬉しくて嬉しくて、お父さんと進藤さんのせっかくの対局を、にやにやしながら観戦してしまった。
「進藤君ならもっと早く上がってくると私は思っていたんだがね…」
「すみません…」
「ま、これからを楽しみにしておくことにするよ」
「はい。ご期待にそえるよう頑張ります」
「……」
お父さんが進藤さんの新初段シリーズの相手を務めたってことは…前に緒方さんから聞いた。
しかもお父さんが指名したとか…。
でも…お父さんは、いつどこで進藤さんのことを知ったのだろう?
進藤さんは院生だったみたいだったから…その時から有名だった…とかなのかな?
「先生は…あのネット碁の一局…まだ覚えてくれてますか?」
「ああ。懐かしいな…もう何年になるのかな」
「6年半です」
「そうか…だがまだ昨日のことのように覚えているよ」
……何の話?
「今彼と再戦したらどうなるかな?そんなことばかり考えてるよ。はは」
「オレももっと…アイツに打たせてやりたかったです…」
彼って誰?
アイツって誰?
「もう打てないのは残念だが、進藤君と打ってると彼を思い出すよ。キミの碁の中に彼は確かに生きているからね」
「…ありがとうございます」
進藤さんの目から涙が滲んだ。
死んでしまった進藤さんの師匠のことなのだろうか…。
プロ棋士だったのかな…?
「お邪魔しました」
「またいらしてね」
「ありがとうございます。じゃあアキラちゃん、また碁会所でね」
「うん…」
母と一緒に進藤さんを見送った後、僕は急いで父の部屋に戻った。
もちろん、父にさっきの人のことを聞くために―――
「私も会ったことはないんだよ。『ネット碁』で一度打っただけだからね」
「ネット…?進藤さんの知り合いなんですか?」
「さぁな」
「……」
「アキラも見たいかね?」
「並べて下さるんですか?」
「ああ。アキラにも見てほしい。負けてしまったんだがね…名人として恥ずかしくない一局だと思う」
「お父さんが負けたんですか…」
「ああ。いつか彼と再戦したいが為に…もしかしたら私はプロとして前線で打ち続けてるのかもしれないな」
「……」
そういって並べてくれた6年以上も前の対局。
コミがまだ5目半だった時の一局。
僕がまだ…6歳の時だ……
「…進藤さんの碁と…似てる…?」
「そうだな。進藤君の碁は確実にこの者の影響を受けていると…私は思う」
あと…本因坊秀策の碁にも似てる……
一体何者…?
「だが進藤君の碁はまだまだ伸びている。いつか必ずこの者も抜くだろう」
「…お父さんは進藤さんをかってるんですね」
「さぁ…どうかな。だがやっと彼もリーグ入りをしてくれた。進藤君以上に私も楽しみでならんよ」
「……この対戦相手の名前はご存知なんですか?」
「saiだ」
………sai………
「…ところでアキラ。いつから進藤君とそんなに仲良くなったのかね?今日は突然で驚いたよ」
「え?!あ…えっと、結構前に…碁会所で偶然会って…それから頻繁に打ってもらってて……」
進藤さんを彼氏として紹介出来る日が…早く来ればいいのに――
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