●LITTLE GIRL FRIEND 32●





「アキラ君!」

「市河さん?どうしたの?家の方に来るなんて珍しいね」

「アキラ君が碁会所に来ないからよ!進藤君が来てること知ってるの?」

「………」


学校から家に帰ると、玄関先で市河さんが待ち伏せをしていた。

斎藤さんの一件以来、僕は碁会所には足を運んでいなかった。

進藤さんに会いたくなかったからだ。

そして市河さんの話によると、まるで入れ違いのようにあれから進藤さんが碁会所に来てるらしい。

もちろん僕に会う為に……



「進藤君と喧嘩でもしたの?彼の方も何も教えてくれなくて…」

「…ちょっと」

「進藤君、アキラ君に話があるみたいよ?会ってあげたら?」

「……」


会って一体何を話そうって言うんだ?

何を話したって斎藤さんに子供が出来たことには変わりない。

どんなに謝られようが絶対に許せないことだ。

お母さんの言う通り、僕は絶対に折れない。

許さない。

それとも…やっぱり斎藤さんと結婚するっていう報告が単にしたいのか?

馬鹿馬鹿しい……



「…僕は話すことなんかありません…って伝えて下さい」

「アキラ君…」


市河さんに溜め息をつかれた。


「でも珍しいわね…アキラ君が感情をここまで剥き出しにするのって」

「僕…剥き出してますか?」

「うん。怒ってるのが一目で分かるもの。アキラ君がこんなに本気で怒るなんてこと…もしかして初めてじゃない?」

「…だって…進藤さんが…」

「あんまり拗ねてたらますます子供だと思われるわよ?」

「拗ねてなんかいませんし、僕はもう子供じゃありません!」

「そう?」

「じゃあ、僕と話したいのならここに来てって言っておいて下さい!それも両親のいる時間に!来れるものなら来てみろって!」

「分かった♪伝えておくわね」


収穫を得た市河さんはご機嫌に車で帰って行った。

ふん、来れるものなら来てみろ。

両親の前で、僕に話したいことを話せるものなら話してみろ。

僕らの関係を。

斎藤さんのことを。

どうせそんな勇気…ないくせに―――









ピンポーン


「あら、お客様みたいね」


翌日の夜――夕飯を家族三人で食べている時に玄関のチャイムが鳴った。

お母さんがパタパタと向かう。

まさか…ね?


気になって様子を見に僕も玄関に向かうと――本当に進藤さんだった…



「アキラさん、進藤さんアキラさんに用があるみたいよ」

「……」


進藤さんが「こんばんは、アキラちゃん」…といつもの笑顔を僕に向けてきた。


何で…今の状況で笑っていられるんだ…?


「市河さんから聞いたよ。ここでなら会ってくれるって」

「……上がって下さい」

「え?」

「今…夕飯の途中なんです。進藤さんもよかったら…」

「え…いいの?」


お母さんの方をチラッと見ると、

「はいはい、じゃあ用意してくるわね」

と台所に向かってくれた。


「えーと…じゃあお邪魔します」

「お父さんもいるから…」

「え?先生も?緊張するなぁ」


父のことを口に出しても、ハハっと笑って…まだ爽快な口ぶり。

あんまり重い雰囲気じゃない…?

一体進藤さんは僕に何を言うつもりなんだろう……











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