●LITTLE GIRL FRIEND 28●
「ただいま、アキラさん」
「お帰りなさい。お父さん、お母さん」
進藤さんの部屋に泊まった翌日夕方――両親が和歌山から帰ってきた。
母が友達とアドベンチャーワールドに行ったらしく、お土産にパンダのぬいぐるみをくれた。
部屋に飾っておこう。
「そういえばアキラさん。昨日はどうしたの?何度も電話したのよ?」
「え?あ……すみません。ちょっと熱っぽかったので、早めに寝たんです。電話がなってるのは気付いてたんだけど…取りに行けなくて…」
「あら、大丈夫?風邪?」
「大丈夫です。もう治ったので」
「そう…ならいいけど」
我ながら嘘が上手いと思った。
両親は僕の外泊を少しも疑ってない。
ホッと安心した。
「あ、お父さん。名人の防衛おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。アキラも見てみるかね?」
「はい」
「じゃあ私はお夕飯の準備をしてきますね」
母が夕飯の準備をしてくれてる間、僕は父に今回の名人戦の一局を並べてもらった。
緒方さんとの師弟対決。
僕にも…いつかお父さんと戦う日が来るのだろうか…。
ううん、早く来るように頑張ろう。
勝ち進んで行くと、必ずお父さんとは当たるんだ。
進藤さんもついに本因坊のリーグ入りを果たした。
リーグでお父さんと当たる。
二人の対局…絶対に見に行こう。
「和歌山はいい所だったのよ。今度アキラさんも一緒に行きましょう」
「はい」
「ああ…そういえば、あなた。今回の解説の聞き手だった…」
「斎藤君かね?」
「ええ、斎藤さん」
え?
斎藤さん…進藤さんは地方だって言ってたけど、名人戦の解説の仕事だったんだ…?
「彼女…もしかして妊娠してるんじゃないかしら?」
え……?
「洗面所で吐いてる所を何度も見かけて…」
「斎藤君は独身だったはずだが?」
「ええ。でもお付き合いしてる方はいるでしょう?ほら、去年のクリスマスに進藤さんといらしたみたいですし…」
「ああ…そんなこともあったな。だが、私達が気にすることではないよ。二人の問題だ」
「そうですわね」
斎藤さんが…妊娠…?
それって……
それって……
「アキラさん?」
「………」
「大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大…丈…夫…です…」
本当は全然大丈夫じゃない。
大丈夫なわけがない。
妊娠?
赤ちゃん?
斎藤さんに?
斎藤さんが付き合ってるのって…進藤さんだろう?
じゃあ……
それじゃあ……赤ちゃんの父親って……――
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