●LITTLE GIRL FRIEND 21●
指導碁の為に棋院に行くと、棋院中が大騒ぎだった。
塔矢名人の一人娘・塔矢アキラのプロ試験合格。
しかもこれまで全勝。
他の受験生と圧倒的な差を見せ付けたらしい。
さすがアキラちゃん…と顔がニンマリした。
そしてその噂の当人は……オレの部屋の前で待ち伏せしていた―――
「コーヒーでいい?」
「はい、ありがとうございます」
この部屋にアキラちゃんが来るのは去年の12月…例の日以来。
もう十ヶ月も経っちまったんだよな…。
もう会わない、二人きりでは絶対!!って…心に決めたはずだったのに―――
「……ごめんな」
「え?何がですか…?」
「去年の誕生日のこと…。ビックリしただろ?」
「…少し。あの頃は僕も知識が足らなかったから…逃げてごめんなさい」
「いや、逃げてくれて助かったよ。危うく小学生を襲っちまうとこだったし」
はは…と苦笑いした。
アキラちゃんはあの時のことを思い出したのか、顔が真っ赤だ。
「制服、可愛いね。よく似合ってるよ」
「本当ですか?」
「うん」
褒めると嬉しそうに笑ってきた。
うん、可愛い。
でも…ちょっと、スカート短くねぇ?
ギリギリ違反ではない長さなのかもしれないけど、お兄さんはちょっと心配。
変な虫が寄ってきたらどうするんだ!
「…あの、今日斎藤さん…は?」
「え…?」
何で……アキラちゃん、オレと斎藤さんのこと知ってるんだ?
やっべぇ…もしかして噂広がってんのかな?
意外と棋院ってそういうの早いからな〜〜
「とりあえず斎藤さんは今日は地方だけど…」
「…そうなんですか」
「アキラちゃんごめん。どこで何を聞いたのかは知らないけど、確かにオレ今…斎藤さんと付き合ってる」
「………」
「でも、信じてほしいんだ。オレにとってはアキラちゃんの方が大事だから」
「……はい」
「アキラちゃんの方が好きだから」
「……はい」
「斎藤さんとはそのうち別れる」
「……はい」
「今アイツ二冠のプレッシャーで…ちょっと精神的に不安定なんだ。誰かが支えてやらないといけないんだよ…」
「……」
それには納得いかないって顔。
何でその役をオレがしなくちゃならないんだ…って?
そうだな…なんでだろう。
昔の馴染み?
ちょっと…放っておけないんだよな。
「…僕が同じようになったら…僕のことも支えてくれますか?」
「もちろん!支えるよ。アキラちゃんならずっと…一生」
「…じゃ、いいです。少しなら…。支えてあげて下さい…」
「ありがとう…」
「…でもそのかわり、僕ともっと打って下さい」
「分かった。またあの碁会所に行くな」
「あと…もう子供扱いしないで下さい」
「……」
アキラちゃんがオレのすぐ横に移動してきた。
腕にぎゅっと手を絡ませてきて…オレの目をジッと見つめてくる。
しかも、目を閉じた。
「…キスだけな」
「はい…」
NEXT