●LITTLE GIRL FRIEND 20●





プロ試験が始まって早二ヶ月半。

僕は早々と合格を決めた。

ここまで全勝。

もう残りの対局が例え全て黒星でも僕の合格は変わりない。

もちろん、全部白星で終わらせるつもりだけどね。






「送ってもらってすみません、市河さん」

「いいのよ〜アキラ君のお願いなら何でも聞いちゃうわ♪」


市河さんにお願いして僕が向かった先はもちろん進藤さんの部屋。

迷惑だと思われるかもしれないけど…来ちゃった。

僕の口から直接合格を伝えたいから――




ピンポーン


しばらく待ってもインターフォンの応答はなし。

ドアも開く気配はない。

もう一度押してみても変わらなかった。


「留守…か」


残念。

今日は手合いの日じゃないからもしかしているかなって思ったけど、研究会とか他に仕事が入っていたのかもしれない。

それか、斎藤五段とデートか…。



「……」



帰ろうかどうか迷ったけど、やっぱり待つことにした。

まだ15時だし。

夕方まで…陽が暮れるまでは待ってみよう。

それでも帰らなかったら…手紙で伝えよう。

筆記用具も紙もあるし、と学校鞄を開けた。

そう――今日は学校帰りだ。

もちろん制服。

もし帰ってきたら見せてあげるんだ。

その為にスカートだってちょっと短めに、可愛く手直ししてもらったんだから。








「…18時…か」


でも、やっぱり進藤さんは帰ってこなかった。

薄暗くなって少し肌寒くなってきた。

はぁ…と溜め息を吐いて、僕はカチカチとシャーペンを鳴らす。

何て書こうかな…。


『プロ試験合格しました アキラ』


ちょっと短いかな…。

お元気ですか?とかも入れようかな。

最近どうですか?なんてのはいらないか…。


『会いたいです』

『打ちたいです』

『話したいです』

『声が聞きたい』


本心を書き続けると涙が滲んできた…。


『進藤さんのバカ』

『バカバカバカーーー!!!』


バカを書きまくって、くしゃくしゃに丸めて鞄に突っ込んだ。



「もういいや。帰ろう…」


と階段に向かい始めた…その時――




「アキラ…ちゃん?」

「進藤さん…」

「アキラちゃん!」


僕の姿を見つけた途端、走って駆け寄って来てくれた。

もちろん僕も走る。


「合格おめでとう!」

「え?どうして知って…」

「皆知ってるって。さっきも棋院に行ったら出版部とか大騒ぎしてたし」

「あ…そうなんですか」


僕の口から伝えたかったんだけどな。

ちょっと残念…。


「四月からプロだな。おめでとう」

「ありがとうございます。一日でも早く進藤さんに追いつけるよう頑張ります」

「オレ、先月六段に上がったんだ。知ってる?」

「はい、知ってます」

「本因坊戦も初めてリーグ入り決定したんだ」

「もちろん知ってます。進藤さんもおめでとうございます」

「ありがとう。あ、三次予選の最終の棋譜並べてあげようか?きっと驚くぜ♪」

「本当ですか?」

「…と、でももう遅いか」


進藤さんが腕時計をチラッと見た。


「大丈夫です」

「でも…」

「大丈夫です!!」



もう何が起きても大丈夫。

その為にこの十ヶ月…大人になる為の勉強をしたんだから。


今度は絶対に逃げないから―――












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