●LITTLE GIRL FRIEND 19●
「今の子誰だよ?」
「あれ?和谷知らないんだ?塔矢先生の娘さんだよ」
「え?!そっか、今年受けるとか噂たってたけどあの子が…」
意外に可愛いな…と和谷がボソッと呟いた。
ム。
言っとくけど、アキラちゃんはオレのだからな!
手出すなよ!
……なんて、今は絶対口が裂けても言えないけど……
でも、久々に会えてすげー嬉しかった!
やばいな…もう会わないって決めたはずなのに、傷付けないって決めたはずなのに…オレの気持ちってすぐにグラつく。
アキラちゃん…打ちたいって。
どうして碁会所に来てくれないんですか…だって。
待っててくれたんだろうな…。
可愛いな…。
オレも打ちたいよ。
でも、プロになったら打てるから。
早く試験なんか突破してこい。
待ってるから――
「ヒカル、今日ご機嫌だね」
「ん?そうか?」
夕飯作りながらつい鼻歌を歌っちまって、斎藤さんが笑ってきた。
「森下先生の研究会、そんなに楽しかったの?」
「んー別に?いつも通り」
「じゃあ他にいいことでもあった?」
「別に〜」
「…ああ、例の好きな子にでも会ったんだ?」
「何で分かるんだよ…って、あ…いや。…ごめん」
「……」
斎藤さんが目を細めてきた。
「今は私の彼氏なんだから、浮気とか…やめてよね」
「浮気なんてしてねーよ、ちょっと話しただけじゃん」
「気持ちが浮気してるって言ってるの」
「仕方ねーだろ、好きなんだから。それでもいいって言ったのは唯だろ?」
「そんなこと言ってない」
「でも好きな奴いるって知ってて、より戻そうって言ったんだろ?同じじゃん」
悔しそうにギュッと…唇を噛み締めてきた。
「……私のこと、彼女だと思ってないの?」
「…思ってるよ」
「期限付きの?好きな子が大きくなるまでの?」
「そういう約束だろ…?」
「その時が来たら別れるなんて…私は言ってないからね」
「…別れるよ。つーか…あと二年もすればどっちみちオレは必要なくなるよ」
「…?どういう意味よそれ…」
「……」
だって…お前が欲しいのは支えて欲しい男なんだろ?
プレッシャーで押し潰されそうなんだろ?
あと二年もすればその必要はなくなるよ。
プレッシャー自体なくなる。
お前が持ってるタイトルなんて、すぐにアキラちゃんに奪取されちまうだろうからな。
「…そのうち分かるよ。嫌でも」
「……」
タイトルを取られた後も支えてやれるのが本当の彼氏なんだろう。
でも、オレには無理。
オレだって余裕なくなると思うから。
アキラちゃんのプロ入りは嬉しい。
でも……脅威だ。
きっと…プロ棋士全員がいずれそう思うようになる――
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