●LITTLE GIRL FRIEND 18●
「聞いたか?進藤と斎藤さん、より戻したって」
プロ試験の申し込みをしに棋院に行った時、エレベーターで一緒になった人達が突然話し出した。
僕の耳は当然ダンボ状態になる。
進藤って呼び捨てにしてる所を見るとこの人達もプロなのだろうか…。
「へー。斎藤さんて将来有望な男としか付き合わないのにな。何で進藤なんだろ」
「あれだろ?昔付き合ってた時は進藤結構注目されてたからだろ?緒方先生とか桑原先生にも目付けられてたし」
「凡人だと分かった途端捨てられたんだよな。笑える」
「でも最近またアイツ戦績上がってきたからじゃねぇ?今年に入ってからは負け無しじゃなかった?先週も藤平八段に中押し勝ちしてたし」
「急にやる気出してきたよな。何の心境の変化かね〜」
好き勝手言われる進藤さん。
斎藤五段って…そういう人なんだ。
でも、見る目あると思う。
だって進藤さんの囲碁センスはお父さん達に劣ってない。
すごく魅力的な打ち方をする。
僕が初めて興味を持った人なんだ。
そして初めて好きになった人…。
だから、必ず取り返してみせる。
絶対に―――
そして一学期も終わりに近付いて来た頃――ついにプロ試験が始まった。
まずは予選。
会場は棋院。
ここに来る度に…つい進藤さんの姿を探してしまう。
もちろん今日は手合いの日じゃない。
でも…もしかしたら会えるかもしれないし――
「…アキラちゃん?」
え…?
エレベーターに向かう途中で、聞きたくて聞きたくて仕方のなかった声に呼ばれた。
振り返ると―――進藤さんが…
「どうして…あ、そっか。プロ試験もう始まってるんだっけ?」
「…お久しぶりです」
「どんな感じ?勝ってる?」
「今日勝てば予選通過です」
「へー早いな」
さすがアキラちゃん、と進藤さんに笑顔を向けられた。
胸が苦しいほどにドキドキする…。
「…あの、どうして碁会所に来てくれないんですか…?」
「…ごめん。今年に入ってからちょっと忙しくて…さ」
デートに忙しいんですか?と嫌味言ってやろうかと思ったけど、やっぱりそんなこと言えるはずはなかった。
「また…進藤さんと打ちたいです」
「オレもだよ…」
「じゃあ……」
「進藤!何やってんだよ!研究会始まるぜ?!」
「分かってるって!すぐいく!」
進藤さんが誰かに呼ばれた。
あ…僕も試験が始まる時間だ。
行かないと……
「んーと、じゃあプロ試験頑張って。アキラちゃんなら余裕だと思うけど」
「はい…ありがとうございます」
「会えてよかった」
僕の頭にポンッと一瞬手を置いてくれて、そしてすぐに進藤さんは研究会に行ってしまった。
会えてよかった…って言われた。
打ちたいとも言われた。
嬉しい。
頑張ろう。
予選も本選も全勝で合格してやる。
見ててね、進藤さん―――
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