●LITTLE GIRL FRIEND 17●
「女流名人位奪取おめでとう、唯」
「ありがとう」
あのクリスマスから早3ヶ月半。
オレと斎藤さんの関係はまだ続いていた。
今日は彼女の2つ目のタイトルのお祝い。
オレの部屋で二人きりでケーキを食べたり、お酒を飲んだり。
もちろん、棋士らしく打ったりもした。
「ヒカルも強くなったよね」
「だろ?ここ最近全勝なんだ」
「六段に昇段する日も近そうね」
「ああ」
この春に斎藤さんの方も昇段して五段になった。
でも……なんでだろう。
五段で女流タイトルも二つも持ってる奴と打ってるのに……つまんない、と思ってしまう。
アキラちゃんと打ってる時に感じるものが、彼女との碁からは全然感じられなかった。
もう三ヶ月以上…あのデートの日以来、アキラちゃんとは打っていない。
打ちたくて打ちたくて仕方がない。
アキラちゃんと打つ方がよっぽど楽しくて勉強になるのに……何で打てないんだろう――
「そういえば塔矢先生の娘さん、今年のプロ試験受けるんですって。事務の子が言ってた」
「え?アキラちゃんが…?」
「ヒカル、会ったことあるの?」
「あ…うん。ちょっと…」
「強いって本当?」
「強いよ。プロになったらたぶん一気に駆け上がってくるよ。低段には敵無しかも…」
「…ふぅん」
斎藤さんの顔がちょっとマジになった。
そうだろうな。
アキラちゃんは女だ。
つまり女流タイトルをまずは当然狙ってくるだろう。
アキラちゃんが入段すれば、女流の中の何かがきっと一変する。
いい方にも悪い方にも……
「負けないわ」
「はは…頑張れよ」
「ヒカルもね」
「もちろん」
12歳で既にあの実力だもん。
オレだってモタモタしてたら、きっとあっという間に追い抜かれる。
アキラちゃんが18になるまでにタイトルの一つや二つ、余裕で持ってるような棋士になるんだろう?
ようやく三次予選にも進み始めた。
ここを突破すればリーグ入りだ。
アキラちゃんが入段するまであと一年。
その間に上れる所まで駆け上がってやる――
「でも…お互いたまには息抜きも必要よね」
斎藤さんがオレの背後に回って…抱き着いてきた。
大きくて柔らかい感触が背中に感じて…温かい息が耳元で吐かれて…。
一気にむずむずしてきたオレは、彼女の手を引っ張ってベッドに連れていく――
「やっぱりヒカルって昔と変わってないね…」
「うるせーよ…。お前は変わったのかよ…」
「ううん…変わってないよ。体も…気持ちも。ヒカルに見つめられると相変わらずドキドキする…」
え……?
「…オレ、好きな奴いるって言ったよな?」
「うん。でもしばらく手出し出来ないんでしょう?じゃあ…それまで私のものに戻ってみない?」
「……よりを戻すってこと?」
「ダメ?別に公にしなくてもいいから…。ただ大事な日にヒカルに側にいてもらいたいだけ…」
「……辛いのか?」
「うん…だって、二冠になっちゃった…。嬉しいけど…プレッシャーに押し潰されそうになるの…。周りの期待と視線が怖くて…一人じゃ耐えられない…」
いつもの自信満々な斎藤さんがオレに弱気を見せた。
男って単純。
守ってやりたくなる。
側にいて支えてやりたくなる。
オレは首を縦に振るしか出来なかった―――
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