●LITTLE GIRLFRIEND 1●
その日―――オレはいつものように道玄坂の碁会所に足を運んだ。
院生の時から通ってる、馴染み深いこの碁会所。
入るとマスターが
「やあ進藤君。いらっしゃい」
と声をかけてくれて、席に座るとマスターの奥さんがお茶を出してくれる。
いつもの騒がしい河合さんが今日はいないから、順番におじさん達の相手をしてみた。
そして数時間後、陽もくれてきたしそろそろ帰るか…と席を立った時―――女の子が入ってきたんだ。
「お嬢ちゃん、打つのかい?」
「はい」
マスターが尋ねると、その女の子は少しニッコリ笑って、書いてある席料をマスターに渡した。
「進藤君、打ってあげなよ」
「え?オレ?」
「おじさんが相手するより若い子の方がいいだろう?」
「まぁ…別にいいですけど」
了承すると、その子はオレの前にやってきた。
う……わ。
近くでみると、すっげぇ…可愛い。
ぶっちゃけ、タイプ?
だけど彼女の背おってるランドセルを見て、いや、オレ、ロリコンじゃないし…と考えを改めた。
「小学生なんだ?」
「はい。六年生です」
「棋力はどのくらい?」
「いつもプロの方と打つ時は二子置いてます」
「へぇ…プロと打ってるんだ?」
「…たまに」
「オレもプロなんだけど?」
「知っています。進藤プロ」
おお。
オレの名前知ってた。
なんか嬉しい。
「えーと…君の名前は?」
「…アキラです」
「じゃあアキラちゃん、打とうか。オレとも二子でいいよね?」
「はい」
んでこの可愛い子ちゃんと打ち始めたわけだけど……
打ってみて思ったこと。
本当にプロに…二子?
つか、プロだろ。
プロ並に強えぞ。
気をぬくと、少しでも見落とすと、マジで負けそう。
ていうか………楽しい。
オレの一手一手に答えてくる彼女の返し方が新鮮で、何時間でも打っていたくなるような碁。
チラッと顔を見ると、視線は真っ直ぐ碁盤に向けられてて、睨むようなその視線にゾクッとなる。
ふぅん…
いいな……この子。
「…と、終局だな」
「僕の2目半負けだ…」
へー。
顔に似合わず自分のこと『僕』って呼ぶんだ?
「…キミ、強いね。プロ試験受けないの?」
「そのうち…受けるつもりです」
「そのうち?」
「もう少し強くなってから」
「ふーん。充分に強いと思うけどなぁ…。実はオレ、ヒヤヒヤだったし?」
ハハハと苦笑いすると彼女も少し口元を緩めてきた。
「楽しかったです。ありがとうございました」
彼女が立ち上がって、深々と礼をする。
「また…打てる?オレも楽しかった」
「……また来ます」
「うん」
これがオレとアキラの初めての出会い。
あと5年早く生まれてくれてたらなー。
このあと食事にでも誘って、口説いたのに―――
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